みずほ銀行は、フランスにおいて浮体式洋上風力発電のプロジェクト「Eoliennes Flottantes du Golfe du Lion」を対象に、リードアレンジャーとしてプロジェクトファイナンスを組成する。同案件は、商業化されていないプロジェクトへのノンリコースローンで、スペインに本拠地を置くBanco Santander,S.A.など民間金融機関および、欧州投資銀行、デンマーク輸出信用基金とファイナンスストラクチャーを組むことにより実行した。浮体式の拡大は日本の洋上風力発電発展に欠かせず、金融機関が知見を蓄積する意義は大きい。同行は、今後同種事業向けノンリコースローンの雛型になることを見込む。
本事業は、Ocean Windsらが出資する特別目的会社が2016年に事業者として選定され、開発を推進してきた。今回のファイナンスにより、地中海ルカート沖の水深約75mの海域にセミサブ型浮体式風車を3基設置する。発電規模は約30MWを見込み、20年間にわたってフランスのFIT制度に基づいて売電する。浮体式では、2016年3月に戸田建設が国内初の実用化に成功するなど日本の技術が先行してきた。だが、明確な数値目標を立てて開発を進行する欧州勢が足元で市場規模を拡大している。
洋上風力発電事業ではコスト削減が進むものの、太陽光に比べてプロジェクトコストは大型化する。通常商業化されていない技術を用いたプロジェクトは、レンダーにとってプロジェクトファイナンスには適さず、財務上、スポンサーによる巨額のサポートを必要とした。今回のファイナンスは、スポンサーが担う負担を限定的にし、すでに実績が豊富な着床式洋上風力と類似の資金調達を可能にした点で将来的な有用性が高い。みずほ銀の担当者は、「グローバルな観点で最大の市場と期待される日本を含めたアジアでの貢献を念頭に置き、同プロジェクトに携わっていく」と未来を見据えた意欲を示した。
日本企業が浮体式に注力するのは、日本海域が浮体式の立地に適しているという理由がある。日本風力発電協会によると、着床式のポテンシャルが約1億2800万KWに対し、浮体式は約4億2400万KWと大きな可能性を持つ。岩手県沖では、フランスの浮体式洋上風力をけん引するBW Ideolが東北電力と共同事業化に向けて、浮体式の実現可能性調査を開始した。「現在は各種データによる机上調査だが、実現に向けた取組みを進める」(東北電力担当者)方針で、BW Ideolが特許を持つダンピングプール技術によりコスト優位性を確保した実用化を目指す。一方、日本勢も戸田建設、ENEOSなど6社コンソーシアムが、長崎県五島市沖で2024年1月の商業運転開始を見通し、9月から浮体式の工事を始める。
日本における開発計画は、欧州との連携を含めて熱を帯びるが、日本の産業基盤を活用出来るかは、洋上風力発電の今後にとって重要な分岐点となる。商業化前の段階で金融機関がノンリコースローンを提供する機会が創出されれば、日本企業にとって強い追い風が吹くと見られる。
2022/7/5 不動産経済ファンドレビュー