近年、子育てファミリーの減少と共働きの増加により、都心アクセス・利便性重視志向が強まったことで、首都圏分譲マンションの郊外ニーズは低下、郊外マーケットの消化能力も低下していた。ただ、今年前半はコロナの影響が深刻さを増す中で、郊外物件の売れ行き好調が目立っている。その要因は需給バランスと割安感に顕著に表れている。復調するマーケットを検証する。
埼玉、千葉、神奈川各県で好調物件比率が上昇 好不調に商品性の違いなく分かれ目は駅距離
今年前半から蔓延するコロナの影響で、テレワークが普及。在宅勤務が一般化したこともあり、住居に対して住環境や広さ、間数を重視する動きが出始めており、都内・都心指向から割安で住環境良好な郊外指向へ転換が始まるという声も聞こえる。ただ、足元で起きている郊外ニーズはそれだけが理由ではない。
マンション市場調査のトータルブレインが、郊外マーケットの売れ行きをデベロッパーにヒアリングしたところ、今年1~6月は明らかに郊外部の売れ行きが好転していることがわかった。首都圏のマンション市場は、アベノミクスがスタートした2013年から2015年頃までは販売は好調だったが、2016年頃からは販売価格の上昇に伴いスピードが鈍化、売れ行きに対する評価の判断基準も低下した。2019年~2020年上半期は、供給ボリュームが大きい東京23区は、売れ行きの評価は横ばいだったが、埼玉県と横浜・川崎を除いた神奈川県、千葉県等の郊外エリアでは、苦戦比率が低下し、好調物件比率が大きく上昇している。
郊外マンションの販売が好調な理由を、単価・価格推移からも見ることが出来る。平均単価を見ると、2012年は東京23区が坪264.5万円、その他のエリアが155万~165万円と価格差が100万円程度だった。それが、2020年は23区の420万円に対して都下以外のエリアでは205万~240万円と、23区との単価差が倍の200万円差に拡大。郊外部の割安感が強まっている。平均価格も同様に、倍近くに拡大しており、買いやすさが高まっているといえる。
千葉県では、徒歩10分圏の物件が2000~2019年まで年間平均4656戸供給され、2007年までは6000~7000戸供給されていた。リーマン後は3000戸台に落ち、2019年は1986戸まで大幅減。需給バランスが非常に良好な状態にある。平均単価は、底値期だった2002~2003年が135万円、直近の2020年前半が205.1万円で54%上昇。23区が97%上昇しているため、千葉は23区の半分程度に止まっている。平均価格も23区との価格差が1300万円程度から3800万円程度まで拡大し、割安感がますます強まってきている。人口は直近20年間で23区の19.8%増に対し7.1%増、世帯数も55.9%増に対し31.3%増。駅1km圏内の借家世帯数も総武線快速停車駅、TX線は安定的に増加し、東西線はすべての駅で1万4000世帯を超え、沿線マーケットは大きい。埼玉県も同様の動きで、都心アクセス力を考えたとき、顧客にとって割安感は大きな魅力に映る。横浜市・川崎市を除く神奈川県も割安感があるものの、都心へのアクセス評価にやや難しさを残している。一方、都下はやや割高な印象が残り、そのためか、郊外の中で唯一売れ行き評価が下がっている。
もちろん、郊外物件の販売でも、好不調には一定の傾向が見られる。2018年以降に供給された物件の中で、好調物件と苦戦物件の集計データを比較すると、平均価格(好調:5054万円、苦戦:4893万円)、平均単価(坪246.4万円、238.3万円)、平均面積(68.30㎡、68.49㎡)、平均戸数規模(155.2戸、108.0戸)。基本的に大きな違いはなく、商品内容はほぼ同規模。唯一の大きな違いは駅距離で、好調物件は駅徒歩5分圏が60%なのに対して、苦戦物件は5分圏が25%と少なく、10分圏(6~10分)が55%と過半数を占めている。言い換えれば、苦戦物件は駅距離のわりに商品性の差がないため、駅近物件に対して競合負けし、販売苦戦となるケースが多い。
駅距離別に好不調要因を見ると、1~7分圏の好調物件は、駅近立地の評価はもちろん、単価・価格も市場の適正水準だったことに対し、苦戦物件は割高な価格設定。8~15分圏の好調物件は、価格の割安感と需給バランスが要因、苦戦物件は駅力が弱い場合、戸建てと競合し集客難、駅力が強い場合は割高な価格と需給バランスの悪さが要因だった。16分以上でも良好なバス便と買い物の利便性があれば割安感でカバーできる。郊外での好調条件は、50~60戸程度の小規模、駅徒歩6~7分、専有面積60~70㎡、坪単価100万円台後半~200万円台前半、メジャー駅で200万円台中半~後半、平均価格は3000万円~4000万円台、メジャー駅で5000万円台。沿線や駅力は必ずしも条件ではない。
コロナを機に郊外居住者が住宅を探し始める
立地、価格、需給バランス注意すれば事業成立
郊外マーケットの売れ行き好転の要因を見ると、需給バランスが非常に良好であることがわかった。今年前半は、前年比マイナス44%の大幅な供給減となったが、首都圏の供給比率では、23区の割合が2018年に43%、2019年に44%だったものが、2020年上半期は51%と過半数を超えて上昇しており、郊外の供給割合が低下している。また、23区の価格上昇に対して郊外部は上昇が少なく、価格格差が拡大。つまり郊外の割安感が強まっている。郊外居住のファミリー世帯が、コロナを機に住宅を探し始めたものの、価格高騰で都内・都心のマンションは高くて手が出ないため、都内・都心方面ではなく、地元の郊外で住宅購入を検討せざるを得ない。ただし、駅近・買い物便等、立地条件は妥協したくない動きが起こっている。
ビフォーコロナ時代は、とにかく好立地指向、都心アクセス重視が進み、都心・城東地区を中心に23区の評価が大幅上昇、市場相場も23区で大幅上昇した。「デベロッパーもこの流れに乗って供給エリアを都内都心にシフトし、郊外マーケットは置いて行かれる状況だった」(杉原禎之トータルブレイン副社長)。結果的に好転した需給バランスと割安感で郊外マーケットが復調していると考えればわかりやすい。
ただ、決して郊外に人が向かっているのではなく、郊外部での賃貸居住者のうち「購入を検討していた層が顕在化した」と見るのが的を射ていると言えそうで、デベロッパーにとって立地と価格(特にグロス)、需給バランスに注意して事業判断を行えば、郊外でのマンション事業にも十分に取り組んでいける判断基準が成立する。
2020/10/15 不動産経済ファンドレビュー