実需と投資の両面で魅力高まる 価値を毀損しないヴィンテージマンションの強み②
不動産経済ファンドレビュー

高額帯中古マンションの中で、“ヴィンテージマンション”は強い個別性と特有の魅力で取得者を惹きつける。言葉の定義がされないまま現在に至るが、ここ10年で携わる事業者が増え整理が進んできた。また、低金利政策と金余りから活況な不動産投資市場では、経年が進んでも価値を毀損しない物件として資金が向かい、過熱感を帯びている。他方、価値ある物件をより長期間維持しようという取組みも広がる。ヴィンテージマンションの定義をまとめ、これまでの供給の推移と今後の行方を追った。

実需と投資の両面で魅力高まる 価値を毀損しないヴィンテージマンションの強み① より続く

供給減少でさらなる価格高騰が見込まれる

避けられない設備更新へ事業者にも課題

 築20年前後の物件が、今後ヴィンテージ性を高めていくことは期待出来るが、2010年以降の竣工物件には、築年数を経たとしてもVMの定義に当てはまる物件が少ない。これは、マンション市場がリーマン・ショック、東日本大震災などの理由で市場が低迷した時期を経て、一転アベノミクスを発端とした価格高騰を辿り、VMが建設される土壌が失われたことによる。そのため、これまで約10年ごとに生じた供給増の波が2010年以降では無く、将来的なVM市場には一定期間の供給減少期が訪れる。足元で数億円という高額物件でも叶いづらい高級仕様を求める実需の富裕層、および21世紀竣工ヴィンテージの価値がいよいよ高まることを見据えた投資家、両者の需要を吸い上げる物件は、今後さらなる価格高騰が見込まれる。

 だがVMとはいえ、法定耐用年数である築47年を超えた物件は、設備の老朽化もあり価値の毀損は避けられない。日本初の分譲マンションで記念碑的存在であった「四谷コーポラス」(2019年建替え)でも、「築50年以降、周辺相場と比較して価格の伸びが緩慢になった」(井出氏)ことから、今後の経年に連れて、第2期竣工の物件価格推移は注目される。そこで、既存VMの価値をより長く維持し、住み継がれていく物件としていこうという試みも広がっている。築古物件のリノベーションに多くの知見を持つNENGOの長瀬徳之街つくり事業部マネージャーは、「VM物件は、いかに保たせるかという住人、所有者の意思と知見の問題が大切」と考える。「VMのリノベで最もポイントになるのはインフラ設備。特に排水周りをどう改修するかが重要になる」(長瀬氏)と指摘するように、専有部のみで完結出来ない設備の更新は非常に難しいことが多い。

 この課題に対し、リビタは1棟全体を購入してリノベを図る取組みで応じる。新耐震基準で建設されていることを条件に、躯体の検査からインフラ設備の更新、内装のリノベまでを一気通貫に行い、築後100年の長期修繕計画を提案する。2018年にリノベを実施した「ルクラス代々木公園」は、地上4階建て総戸数7戸、エグゼクティブ外国人向け賃貸マンションとして1998年に竣工し、専有部面積は188.40㎡~311.64㎡。こうした小規模な高級マンションは、建替えには敷地面積が手狭となることが多いが、堅牢な作りで設備を更新すれば十分に住み継げる。経年と共に空室を抱えがちとなったこうしたマンションを躯体・設備などの基礎から更新を検討することで、築後100年という長期目線で地域に根差す物件へとよみがえらせていく。

 1棟リノベが叶う物件は限られるが、新耐震VMの多くは、現状の経年ならば専有部内のリノベで対応が出来る。だが、「旧耐震の物件をどうしていくかは、所有者だけでなく事業者の課題でもある」(斎藤氏)。人々の暮らしが中心であるべきマンションは、文化財とは異なり、更新されることで価値を生むという面がある。そうであれば、物件が持つ歴史的背景・立地特性などを重んじた建替えも一案と言える。VMは、マンション市場の一翼を担う富裕層の中でもこだわりを持つ所有者が多いだけに、資産価値の維持に最善の方法は何か、新たな発想や取組みにも期待したい。

2022/5/25 不動産経済ファンドレビュー

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