実需と投資の両面で魅力高まる 価値を毀損しないヴィンテージマンションの強み①
不動産経済ファンドレビュー

高額帯中古マンションの中で、“ヴィンテージマンション”は強い個別性と特有の魅力で取得者を惹きつける。言葉の定義がされないまま現在に至るが、ここ10年で携わる事業者が増え整理が進んできた。また、低金利政策と金余りから活況な不動産投資市場では、経年が進んでも価値を毀損しない物件として資金が向かい、過熱感を帯びている。他方、価値ある物件をより長期間維持しようという取組みも広がる。ヴィンテージマンションの定義をまとめ、これまでの供給の推移と今後の行方を追った。

富裕層・投資家が狙う“21世紀ヴィンテージ”

ブランド引き継がれ築く盤石の需要層

 高額帯中古マンションの好調さを背景に、“ヴィンテージマンション”(以下、VM)市場が活況を呈している。VMの定義は、足元でも定まってはいないが、参入する事業者の増加と共に、一定の共通理解が醸成されてきた。VMを名乗るには大きく分けて4つの条件がある。まずは、立地。現況では邸宅街である3A(青山・赤坂・麻布)に広尾と番町を加えた5地区へ物件は集中する。次に、デベロッパー、設計者ら作り手の仕事が感じられること。年月を経て滲み出す“こだわり”は、無形資産として物件の評価を高める一因となっている。感性的な側面が強く、ゆえにVMには個別・特有な魅力があるとも言える。3つ目は、管理の良さ。基本的な管理態勢はもちろんのこと、築古であってもこの物件に住みたいという意識で入居する住民が多いことは、共有部の清潔さや修繕意識の高さにもつながる。最後に、街区環境を構成する物件であること。周辺住民の認知度が高く、1つのブランドとして君臨する物件は、街全体の魅力と密接に結びつく。

 こうした理解を背景に置き、東京カンテイは「築10年以上+おおむね100㎡以上、坪単価300万円以上」という基準で2006年から2016年まで調査を行ってきた。だが、地価および取引価格の高騰により、近年は立地のみで基準をクリアする物件が混在する状況となったため、調査結果の公表を一時中断している。一方で、個別企業からの調査依頼等で市場を注視する東京カンテイの井出武市場調査部部長によれば、VMは周辺中古マンション相場と比較しても価格の上昇角度が急で、市場は過熱感を帯びている。特に「富裕層や投資家が狙っているのは、21世紀に竣工したヴィンテージだ」(井出氏)。

東京カンテイの基準で見ると、VMが多数竣工した時期は、およそ3期に分けられる。第1期は、マンション黎明期。「南青山第1マンションズ」など1等地から建設が始まり、黎明期らしくデザインには作り手の個性が光る。第2期は、バブル期。豊富な資金力を背景に豪華な仕様が目立つが、必ずしも華美ではなく、「広尾ガーデンヒルズ」のように街区の景観の一部を担う物件も多い。第3期は、2000年代前半~中盤の地価低迷期。地価が下落したため、大手デベロッパーらが1等地で用地を取得し、用地費用を抑えられた分、建物に資金を投入した。代表例の1つである「パークマンション千鳥ヶ淵」は、こだわりの間取りと高級仕様が実現され、竣工当初の割安感もあり、価値は高まり続けている。第3期のマンションは、築20年以下とヴィンテージの中では築浅だが市場の評価は定着しており、5年程度の安定的運用とキャピタルゲインが狙える点で投資家に好評を博している。

 他方、実需の資金もVMへ向かっている。「30代~40代の富裕層が実需として注目している」(斎藤渉リビタR100 TOKYO事業部グループリーダー)。実需が向かう理由として、新築で100㎡以上を確保する物件の供給が少なくなっていることは一因と言える。加えて斎藤氏は、タワーマンションにはない魅力を求める富裕層需要、中古に対するアレルギーが払拭されつつあることを理由に挙げる。中堅世代の富裕層は、リセールバリューがあることを前提に、自らの価値観やライフスタイルに合う物件を探す。また、コロナ禍でリモートワークが増え、郊外の住宅が注目される一方で、鉄道使用を最小限に出来る都心にも需要が発生した。さらに、「両親から物件を勧められて取得するという例も見られる」(斎藤氏)とも指摘しており、地域においてブランドを確立したVMの評判は世代を超えて受け継がれ、盤石の需要層を築いている。

実需と投資の両面で魅力高まる 価値を毀損しないヴィンテージマンションの強み② へ続く

2022/5/5・15 不動産経済ファンドレビュー

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