新たな時代におけるサ高住のあり方―早めの住み替えという選択も― 有限会社夢工房 代表取締役 古居みつ子
古居みつ子氏

 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は国の支援制度に支えられて着実に増加し続け、2011年10月の制度開始から10年余を迎えた2021年末、約27万戸が整備されている。安否確認・相談対応付きの賃貸住宅で、介護サービスを提供する施設ではない。健康なうちに早めに住み替え、介護が必要になっても外付けの医療・介護サービス事業所等が提供するサービスを利用して暮らせる安心の住まいとして計画整備されてきた。


 整備戸数は当初の大量供給時代を過ぎて近年は前年比4~5%の増加率で、コロナ禍にあっても年間1万戸~1.5万戸程度の整備が続いている*1。

事業所数においても、「高齢者向け住まい」(有料老人ホームを含む)は「介護保険施設」を上回り、高齢者を対象とする住まい分野の事業として定着してきた*2。


 しかし、人口動態を見ると制度設計はこのままでよいのかと危機感を感じる。日本の総人口は減少局面にあり、今後要介護認定率の高い85歳以上人口が飛躍的に増大するなど人口構造が大きく変化することが予測されている。推計数値では2040年の85歳以上人口は2020年の1.65倍、約400万人が増える*3。同様の傾向は多くの先進諸国でもこれから起こることで、先陣を切る日本がモデル的なソフトランディングの方策を示すことが期待されている。サ高住は住まいの施策モデルになるだろうか。

 

 現在のサ高住利用者像から求められている機能を類推し、今後のサ高住のあり方を考える。

サ高住に求められる機能
(新規入居者の平均像)


 サ高住に住み替える新規入居者の年齢は平均84.5歳、80歳以上が7割強と、かなり高齢である。従前の住まいは自宅と自宅以外(入院入所施設)が各5割弱。9割弱が要支援/要介護認定者で自立高齢者は1割程度と少ない。支援や介護が必要になってから家族や周囲のススメにより自宅から住み替えるケース、病院等からの退院退所後の受け皿として入居するケースの大きく二つに分類できる。いずれも、言わば特別養護老人ホームの待機待ち入居に近いことがわかる。


 調査結果はあくまで平均値だが、サ高住利用者は介護が必要になる前からの早めの住み替えからは程遠いことがわかる。事業所でみても、入居者全員が要支援/要介護認定者であるサ高住が約半数を占め同様の傾向にある。つまり、約半数は自宅(地域)に限界近くまで住めているのであるが、そのことが介護度を悪化させている側面も見逃せない。
重介護になってからの社会的負担コストは大きい。地域で食事サービスなどによりサ高住と関わりがあると、支援や介護が必要になる前からの早めの住み替えに抵抗感がなくなり、居住者像も変化してくるのではないか。

新たな時代に向けて


 最近、共に60歳後半の知人夫妻が県域を超えて広めのサ高住に転居した。妻の難病の投薬による副作用がわかり「夫妻だけでの居住継続は不安」「自分らしい暮らし方」実現のための決断だった。故郷に近く、医療・介護事業所との連携が整備されていると判断して、介護が必要になる前に安心の住まいを確保した。
 それぞれの人生があるように、多様なサ高住の出現と共に高齢期の住まいの選択も多様になってきた。
団塊の世代が全て後期高齢者になる2025年以降、要支援/要介護認定者が顕著に増加し続ける新たな時代を迎える。高齢者の9割以上が自宅で生活している現状では在宅の要支援/要介護認定者が増加する一方、前記知人のように介護が必要になる前から予防的にサ高住を選択するケースも増加するであろう。介護人材不足も大きな社会的課題であることから、制度創設趣旨である「重度化する前の早めの住み替え」が拡がることの意義は大きい。そのために今後重要なのは、自己決定のための情報環境・相談体制など周辺環境の整備である。


 先の知人夫妻は比較的若くITにも精通していたので、リサーチが容易で自己決定できたが、そのような人ばかりではない。ロールモデルのない現代、高齢者自身がそれぞれに生活支援や介護が必要になった時の住まい・暮らし方について、あるいはどこで最期を迎えるか、早い段階から考えることがますます求められる時代になっている。
 サ高住の役割は、居住者サービスだけではない。地域包括ケアシステムの一環として機能を発揮することや地域に開かれた施設運営がいかにできるかが、新たな時代に向けて問われている。
 社会的負担の軽減、介護人材の確保の困難さを視野に入れて、サ高住ストックを有効に活用しながら、在宅で暮らす高齢者全体の住まいを見直す方向での制度設計のあり方を考える時を迎えているのではないか。

*1 令和3年末ストック。資料:サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム(一社)高齢者住宅協会(既存高専賃・高優賃等の登録替えを含む)
*2 令和2年度老人保健事業推進費等補助金「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究」報告書令和3年3月 PwCコンサルティング合同会社
*3 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成29年推計)中位推計値

2022/4/27 不動産経済Focus&Research

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