新時代の管理運営を探る54 マンション管理60年目の大改革 社会資本として行政の積極的な関与が可能に(上);飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)
マンションタイムズ

 


2022年は、分譲マンションの歴史にとって大きな節目の年である。1962年月に区分所有法が制定されてから60年を迎えることに加え、一昨年大幅改正されたマンション管理適正化法が施行され、マンション管理計画認定制度等がスタートする。区分所有法はマンションの権利関係を定めることで、マンションが普及する基礎を築いた。管理計画認定制度等はこれまで管理組合による自主制に委ねられてききたマンションの維持管理に、国・地方自治体が積極的に関与することを明示した。都市の重要な社会資本となったマンションの歴史を振り返り、今後の発展方向を考える。

 マンションの事業モデルは、戦後復興と高度経済成長期に人口が急増、特に都市に多くの人が集中したことを背景に成立した。建物等のハードの原点は400万戸を超えるといわれた住宅不足を解決するため大量に建設された、鉄筋コンクリート造の賃貸住宅団地である。DKを中心とする食寝分離の間取りは、新しい洋風ライフスタイルの象徴としてとして広く歓迎された。しかし、団地は賃貸住宅で自分自身の財産ではない。住戸のスペースも狭く庭もない。当面の生活の場であっても、永住の場とは考えにくかった。終の住処としたいのは庭付き一戸建てだが、当時でも大都市の通勤圏内で庭付き一戸建て住宅は容易に入手できなかった。そこで登場したのが家賃を支払う代わりに、ローンを完済すれば完全に自分の所有物になる分譲マンションである。
 生活が次第に豊かになることを多くの人が実感できた、高度経済成長期の住宅観を象徴する言葉として「住宅双六」がある。木造アパートを振り出しに、コンクリート造の賃貸住宅、分譲マンショと進み、庭付き一戸建て住宅を「上り」とする。マンションは、遠からず移転をする仮住まいとして、住宅双六の一つのスッテプに位置付けられていた。


 現在も耳にする「マンションは管理を買え」は、この時代にも既にあった。しかし、良質な管理は建物と同様に「買う」もので、区分所有者等の努力で実現するものと考えられていたわけではない。デベロッパーもアフターサービスも含め、管理業務を行う管理会社を設立し、入居後面倒なことはないことを強調した。欠陥マンションを追求する運動が盛んだったこともあり、マンション購入後の区分所有者による管理を、できるだけ形式的なものにしたいという思惑もあった。 
 制定から20年以上経過した1985年、区分所有法が改正され、全てのマンションに団体(管理組合)が存在するとされた。最初の標準管理規約が発表されたのもこの時期である。だがこの時代は、区分所有者をマンション管理の担い手として育てるという視点は乏しかった。区分所有者全員で構成する管理組合が、管理会社に業務委託することによって、適切な管理が実現すると期待されてきた。2000年に制定されたマンション管理適正化法や建替え円滑化法も、管理組合による管理を支援するためのマンション管理士と管理業務主任者、管理業者登録制度や、建替組合等の仕組みを設けることで、管理組合が適正に運営され、マンションが再生されるという考えに立脚していた。
 国の考え方が大きく変わったのは2008年に社会資本整備審議会が「分譲マンションストック500万戸時代に対応した、マンション政策のあり方について」を答申してからである。答申は高経年マンションの急増を背景に、管理の責任は管理組合や区分所有者あるが、国や地方自治体等が政策的に関与することに、意義があるとの考え方を示した。
 続いて2020年に社会資本整備審議会のマンション政策小委員会のとりまとめとして、国及び地方自治体の役割を強化すべきこと、特に地方自治体が能動的な関与をするための必要な措置を講じるべきことを明示した。これに基づき同年6月にマンション管理適正化法と建替え円滑化が改正された。特に適正化法の改正は大幅なもので、改正前のマンション管理士や管理業者登録制度等の業法的な条文の前に、国や地方自治体の関与についての条文が設けられた。また適正化法に基づき国土交通大臣告示として発表される適正化指針が適正化方針に変更された。「方針」は「指針」に比べボリュームが大幅に増え、国及び地方自治体の役割が明示された。(図参照)

新時代の管理運営を探る54 マンション管理60年目の大改革 社会資本として行政の積極的な関与が可能に(下)へ続く

2022/1/5 月刊マンションタイムズ

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