賃貸人の保証会社への通知期間経過による免責条項が制限された事例 ~名古屋地方裁判所平成24年5月31日判決
【事案】
原告(賃貸人)は,平成22年6月5日,A(賃借人)に対し,愛知県春日井市所在の建物を、月額6万円(家賃4万8000円,管理費6000円,駐車場代6000円)、賃貸期間平成22年6月15日から2年間で賃貸し、被告(保証会社)は,Aのために連帯保証をした。
Aの賃料滞納により、賃貸人は、賃貸借契約を解除し、保証会社に保証債務の履行を求めた。
これに対し,保証会社は、賃貸人が81日以内に保証会社に対し賃料等の滞納を報告しなかったことから,連帯保証人としての責任を免れると主張した。
保証契約には、次の免責条項があった。
賃貸人は,賃借人の債務不履行について,保証会社指定の代位弁済請求申請書を用いて,賃料等の支払期日から40日以内に通知して事故報告を行う。40日以内にその事実を通知しなかった場合は,保証会社は以下の割合により算定した保証債務を負う。
a 41日以上60日以内の滞納事故報告の場合は80パーセント保証
b 61日以上80日以内の滞納事故報告の場合は50パーセント保証
賃貸人が次のいずれかの事由に該当する場合は,保証会社は保証債務の支払義務を負わない。
賃借人の滞納が発生しているにもかかわらず,保証会社に対して滞納の発生日から81日以上経過して事故報告を行った場合(以下「本件免責条項」)
【裁判所の判断】
本件免責条項の内容は賃貸人が認識し得た。また,保証会社は,賃料等の支払状況を把握することが困難であるため,賃貸人に通知を求めることは合理性のあるし,通知の求めを実効あるものとするために,通知しなかった場合に,一定の要件の下で,連帯保証債務の履行をしないものとすることも合理性を欠くということはできない。
他方、連帯保証人は主たる債務者と同一の責任を負うのが原則で、連帯保証債務が発生したにもかかわらず,これを免れることができるというのは例外的なことである。
しかも,本件契約の免責事由のような定めがあることは一般的ではなく,主として連帯保証人の利益のためだから,連帯保証人は,その存在や内容を説明すべき義務を負っているというべきである。
本件では、保証会社は賃貸人に契約書を交付したとはいえ,本件免責の定めが記載されている裏面の文字は非常に細かい文字で,しかも行間を詰めて記載されているのであり,契約書が交付されたことをもって説明義務を果たしたとはいえない。
また、通知を受けることができなかったことによって,直ちに保証会社が何らかの損害を被るわけではない。
また,本件契約は、賃貸人が80日以内に賃料等の滞納を通知しなかったということだけで連帯保証人の責任を免れることとしており,賃貸人の主観的事情や通知が遅れた事情はもちろん,通知が遅れたことが連帯保証人の責任拡大につながったかどうか等の諸事情を全く考慮することなく,当然に連帯保証人の責任を免れさせることとしている。
また、賃貸人は、結局,Aによる賃料等の滞納から約7か月経過後にその事実を保証会社に通知したところ,賃貸人は、本件免責条項を認識しながら,保証会社に対する通知を怠り,又は殊更に通知を遅らせたわけではない。
Aは、平成23年3月以降強制執行に至るまで,賃料等を全く支払わず,自発的に明渡しをすることさえしなかった。そうすると,仮に賃貸人が保証会社に適時に通知していたとしても,Aは同じような対応をしていたと考えるほかなく,賃貸人が通知を怠ったことが保証会社の責任拡大につながったとまで認めることはできない。
本件免責条項は,通知が遅れた日数に応じて保証会社の責任の割合を変えており,その日数自体,ある程度余裕をもった形で設定されているものの,通知すべきことや本件免責の定めを認識していない者との関係では特段の意味はない。
むしろ,賃貸人が,変更後の保証会社の本店所在地を調べて内容証明郵便を送付した経緯や,賃貸借契約を解除するためには一定期間の賃料等の滞納の事実が必要と解されていることを踏まえると,賃貸人が保証会社に連絡をとったのが賃料等の滞納から約7か月後であったということが,不合理というほど遅いとまでいうことはできない。
以上総合すると,保証会社が責任を全部免れることは,信義則ないし衡平の観念に反する。もっとも,賃貸人は、本件免責条項を認識し得たこと,その他の上記認定事実を考慮すれば,保証会社において4割の限度で連帯保証人としての責任を免れると主張することは、信義則ないし衡平の観念に反しない、と考えられる。
賃貸人の本件請求のうち4割については,本件免責条項により保証会社は責任を負わない。