経営圧迫進む高齢者住宅・介護市場―気になる収支構造と、迫り来る「2025年問題」(上)
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2000年施行の「介護保険法」から21年が経過し、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などの高齢者住宅市場は今、建物の経年化と自立していた入居者の要介護化が進み、新規入居率の低下に苦しんでいる。高い入居率を維持できない事業者の撤退も増加している。団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」を目前に控え、入居者の長寿化(90歳超え)、介護人材不足など高齢者住宅&介護市場は多くの難題を抱え始めた。


建物の経年化と入居者の要介護化が同時進行
一括前払い方式では“長寿化”が経営に影響


 高齢者住宅(サ高住、有料老人ホームなど)は介護保険法が施行された2000年から増え始め、2000年には349施設だったのが03年には662、05年1418、07年2845、09年4373と急増した。09年に竣工した施設でも既に12年が経過しており、建物の経年化が進み、新築時のような輝きを失っている。また、入居当時は元気だったシニアも介護を受ける人たちが増えている。入居のため見学に来た人は、活気を失い始めたそうした施設の様子を見て、「自立型住宅で楽しく暮らしたい」という夢が壊れ、入居意欲を失ってしまう。そのため開業時と比べると、なかなか入居が進まないというのが現状だ。
高齢者住宅は全体の入居率が90%を切ると採算が厳しくなると言われているので、今後運営戸数に占める築古物件が増えるほど、経営が圧迫されていく事業者が増える運命にある。建物が古くなると、開業時の高い価格では入居がままならず、やむをえず価格を下げる施設もある。また、建物は経年と共に当然修繕費用もかさむ。
高齢者住宅の経営を圧迫する要素として、入居者の長寿化(90歳超え)も目立ち始めた。その理由はこうだ。賃貸型高齢者住宅の家賃には「月額払い」と「一括前払い」の2種類があるが、サ高住などでは入居者の約6割が前払い方式を選択する傾向にある。それは、高齢者の多くが収入を年金のみに頼っているため、途中で家賃がアップすることを恐れるからである。将来的に年金が増額される可能性は限りなくゼロに近いし、むしろ減額される可能性さえあるだろう。
家賃一括前払いの金額は平均寿命(現在は男81歳、女87歳)を基に想定居住期間を算出して決定しているため、想定を超えて長生きすると、施設側にとってその期間は住まいの無償提供(償却切れ)ということになる。施設は健康管理が行き届き、定期的な健康体操なども行われているので、平均寿命よりも長生きする可能性が高い。本来なら祝うべき長寿だが、民間企業ゆえにそれが経営を圧迫するという不条理を生んでいる。

前払い家賃の非返還分償却方式が変更に
一括償却が不可、想定居住期間で均等償却に


 従来は前払い家賃の非返還分(自立型は前払い金の15~20%)を入居時に一括償却することが可能だった。しかし、21年度4月から国際会計基準(IFRS)が変更され、非返還分(介護型だと30%程度)の償却は想定居住期間で均等計上しなければならなくなった。その想定居住期間は前述の平均寿命から算定するものとは違い、介護型は5~7年、自立型は10~15年とされている。
もし、前払い家賃が4000万円なら、従来は自立型でその15%に当たる600万円を一括償却できた。そのため、これまでなら、長生きによる無償提供が発生しても、新しい入居者の非返還分(600万円)でカバーできていたのが不可能となる。施設側の痛手は大きい。
ある高齢者住宅の運営者は「これまでは前払い方式を進めてきたが、今後はそうでもない」と話す。とはいえ、月額払い方式は事業者側にとって長生きリスクはないものの、物価が上がったからといって高齢者に家賃引き上げ請求ができるかというと、簡単ではない。日本はこれまでは長い間デフレ基調が続き物価が安定していたが今後は予断を許さない。前述のように、年金支給額のインフレスライドが実際に行われるのかも不明だ。

経営圧迫進む高齢者住宅・介護市場―気になる収支構造と、迫り来る「2025年問題」(下)へ続く

2021/7/15 不動産経済ファンドレビュー

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