日本マンション学会、20年度学術大会オンラインで開催ー高経年マンションの流通方策、管理適正化への法整備など議論
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 日本マンション学会はオンライン形式で2020年度の学術大会を11月7日に開催した。本来は4月に大阪市で開催を予定していたものを代替し、元々予定していた6つの中から4つの分科会の研究内容が報告された。高経年マンションの管理適正化や管理不全予防に向けた取り組みなどが紹介され、法改正の必要性にも議論が展開したほか、管理組合のより主体性のある活動に向けた取り組みを促す方策などが提起された。

図書類の保管へ適正化法改正が俎上に


 マンションストック活用研究委員会が「持続的な居住に向けたストック活用」と題して報告した第1分科会では、まず集合住宅維持管理機構の梶浦恒男理事長が「マンションの管理組合が備えておくべき図書類に関する現状の問題点と改善への課題」をテーマに報告した。梶浦理事長は、マンションの建物や設備に関する図書類や大規模修繕工事に関する資料などが適切に保存されず、工事の設計監理や長期修繕計画の作成・変更に支障が生じるケースがある点を指摘。そのひとつの要因として「マンション管理適正化法103条では、分譲会社がマンションの管理者に設計図書を交付しなければならないと規定されているため、103条に記載のない設計図書の建具表や設備関係図書などを除いて、法律に記載した図書に限定して管理組合に渡しているケースがある」と問題視した。また、図書類を管理会社が保管するケースでは、会社に保管して必要な場面ですぐ見られない状況や、管理会社の変更の際などに散逸する可能性があるとし、マンションの管理事務所に保管することも必要と述べた。
 さらに、行政や業界団体などで管理状況が市場で評価される仕組みが検討されている動きに触れ、「評価項目で図書類の保管状況や修繕・調査の記録が適切か、管理する際にすぐ活用できるようになっているかにも注目し、評価に含めてほしい」と要望した。
 参加者からはこの課題に対し「同様の問題に直面しており、適正化法の改正に向けた取り組みが必要だ」と同調する意見が挙がったほか、マンション管理センターの運営する「マンションみらいネット」で図書類がサーバーで保管できる仕組みなどを活用し、ITでの保管を義務化すべきとする意見も挙がった。梶浦理事長はこうした指摘を受け「マンションの基本として、管理全般について管理組合が主体的に関わることが重要だ。そのための方法や事例を共有していきたい」と応じた。

高経年マンションの流通には周辺地域の再生や法人化も


 また「持続可能なマンション居住をめぐる特殊解の現状報告(松本恭治先生の問題提起を踏まえて)」と題した第3分科会では、学会の理事を務め今年逝去した松本恭治氏が提起していた課題を引き続き研究していくこととし、マンション住環境まちづくり研究委員会が現状を報告した。その中でマンション管理士の近藤俊一氏は、松本氏が高経年マンションを若年世代に譲り渡し住宅改修を進める環境が必要と提起していたことに触れ、その実現に向けた課題を整理した。若い世代への流動化については、国土交通省のマンション総合調査で若年層が住宅を選ぶ際に立地や買い物の利便性、間取りなどを重視している点を踏まえつつ、コロナ禍による社会の変化を見ながら周辺地域に求められる要素を調査したいと述べた。また住宅改修を進める環境については、「高経年マンションが流通に乗り若者が入居するようになるには、若者のニーズを求めて周辺地域の再生も行い、入居してきた若い世代を管理組合活動に巻き込んでいく必要がある。ひとつの方策としては、区分所有法との関係は課題だが、管理組合を法人化して組合が流通の主体になったり、専有部を賃貸することが考えられる。賃貸物件として魅力のある専有部づくりや周辺地域の環境整備をどうするかも研究課題になる」と先を見据えた。
 組合の法人化については、千葉大大学院の中井萌氏も組合法人とコーポラティブハウスの取り組みを参考に管理規約のあり方などを研究した事例を報告した。調査した合計6物件では、法人化により団地内の住戸を購入してコミュニティスペースを整備した例や、コーポラティブハウスで憲章を掲げて居住者の住まい型の意識を共有化し、転入者がいた場合もその内容を説明して管理への意識を持たせた例を紹介。「法人化による組織的な強化や、コーポラティブハウスの自主的意識の醸成が、当事者意識を持った管理につながっている」とした。
 分科会を取りまとめた福井大学の田中志敬准教授は「今後はマンションが地域の防災拠点や公共財としての位置づけを得ていくのではと考えており、事例を探したい。ストックを市場で流通させるだけでなく、管理できないマンションを行政でサポートすべきと判断するときに公共投資として手を付けていくのかという点も、人口減少社会の中でひとつの視点になるのでは」と見据えた。

議案質問の事前提出、説明の明確化や効率的な進行に


 一般報告と実務・管理報告を行う第6分科会の中では、マンション管理士の片山次朗氏が修繕積立金一部後納制度に関する研究を報告。昨年の福岡大会に続き、年金生活者などが修繕積立金の引き上げに応じられないときに、管理組合を法人化した上で引き上げた積立金の支払いが難しい居住者には物件を担保にして後納とする形を提起した。今年度法人化した管理組合で制度に関心を示したマンションもあったことから、制度を実践していく考えを示し、「長期的に見て資金の確保になれば安心感も出る上、積極的な工事にも取り組める可能性がある。住宅を担保にすることについて、1軒ずつではなく複数の物件をまとめることで金融機関の信用も得られるのではないか」と期待を込めた。
 また大和ライフネクストマンションみらい価値研究所の大野稚佳子研究員が総会・理事会の活性化に向けた事例を紹介した。大野研究員は議事進行の工夫として、議題に質問のある人には事前に質問状を提出してもらい、その回答も議案説明にあらかじめ加えて質疑応答の時間を有効に活用する方法を紹介し「注目度の高い議案があった際に質疑応答に時間がかかり、予定時刻に終了できないケースもある。事前に質問を集め、議案説明の中で答えることで説明もわかりやすくなったほか、効率的に進行もできた」と語った。また、総会の出席表の回収が進んでいない際に、提出書 類のみ色を変えてわかりやすくしたり、エレベーターに残りの提出数がいくつかを随時掲示するようにし、未提出者にも喚起することができたケースを挙げ「6割だった提出率が9割を超えた。コロナ禍だったがその中でも効果的だった」と成果を報告した。

2020/12/1 月刊マンションタイムズ 

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