不動産ID、広がるユースケース  ―不動産の共通番号、データ連携のキーに
不動産経済ファンドレビュー

(提供:不動産経済ファンドレビュー)土地・建物に社会共通で用いられる番号を付す「不動産ID」。国土交通省はガイドラインをまとめ、IDの利用・連携を促す「不動産ID官民連携協議会」を立ち上げた。この秋からは民間事業者や自治体らによるパイロット事業がスタートする。「不動産ID」とは何か。どう使われるのか。想定されるユースケースはかなりの広がりを見せた。関係するデジタル庁や民間団体の動きとともに探っていく。

国交省がまとめた「不動産IDルールガイドライン」によると、不動産IDは、不動産登記簿に記載された13ケタの不動産番号に、不動産ID独自の「特定コード」(4ケタ)を加え、合計17ケタで構成する。付番のルールは、土地と建物で分かれるが、さらに建物は、戸建てのほか、分譲マンションなどの区分所有建物、商業用のビルや賃貸アパート・マンションといった非区分建物に分けられている。例えば、オーナーが1棟で持つアパート(非区分建物)の場合、登記されたアパートの不動産番号13ケタに続く特定コード(下4ケタ)に、部屋番号を付けることができる。101号室であれば、不動産番号13ケタに続けて「0101」とし、計17ケタといった具合だ。一方、土地や分譲マンションなどの区分所有建物は、登記により対象が特定されているため、特定コードを必要としない。不動産IDとしては、不動産番号13ケタに続き、下4ケタは「0000」とする。
ガイドラインには、記述ルールも示されている。「使用する文字種は、半角とする」、「数字は半角数字、アルファベットは半角大文字のみとする」、「原則として『不動産番号(13ケタ)-(半角ハイフン)特定コード(4ケタ)』と記述する」などとし、例えば、アパート「2a号室」とあれば、「2A」と変換することになる。細かなことだが、デジタルの整備・推進においては根本をなすことである。

出発点は不動産DXの推進
実現阻む名寄せの手間や時間

不動産IDとは、社会全般で用いる不動産の共通番号、いわば不動産版のマイナンバーと言っていいだろう。物件を瞬時に特定でき、データ連携のキーとなる社会情報基盤と考えられる。出発点は、本格的なデジタル社会を迎えるにあたり、各分野でDXが推進されるなか、不動産分野においてDXを強力に推進することだった。情報インフラを整備する一翼を担い、不動産業の生産性とユーザーの利便性を高め、不動産市場の活性化と透明化を図ることを狙った。不動産取引では、価格査定や広告、契約書類の作成で年間400億円超のコストが発生しているとの試算もあり、不動産IDをキーとした情報の共有により物件管理を容易にし、効率化を促進、仲介会社や管理会社、リフォーム会社それぞれが調査する重複コストを削減できると見込んだ。地価公示や都市計画、ハザード情報などの不動産関連データも紐付け、調査コストを低減する。
ただ、不動産の共通番号というインフラを整備することは、それだけにとどまらない。電気・ガス・水道・通信などの生活インフラや、まちづくり、物流、さらには、スマートシティやデジタル田園都市国家構想、デジタルツインなど、地図や空間情報ともつなげ、幅広い方面での活用・連携を想定している。
だが、それらの実現を阻むのがデータやシステムの未整備、関係情報の収集や名寄せに手間と時間がかかることだった。その一つとして指摘されたのが住所の表記ゆれである。表記のゆれ、ゆらぎとは何か。例えば、人名では、ワタナベさん。「渡邊さん」や「渡邉さん」が簡略化して「渡辺さん」を使うとゆれが起こる。同音、同義だが、文字が違うことをいう。地名のゆれの代表例がカスミガゼキ。「霞が関」も「霞ヶ関」も「霞ケ関」もあり、誤って別のカスミガセキが使われてもわからない。不動産IDにかかわる表記のゆれは、住所表記である。たとえば、住居表示が「東京都千代田区丸の内1丁目1番1号」であっても、都道府県を省略して「千代田区丸の内1丁目1番1号」としたり、丁目・番・号を省略する「東京都千代田区丸の内1-1-1」などは日常的に使われており、これが機械判読の妨げになったりもする。
加えて、不動産特有の問題が売買実務における地番と住居表示を照合しなければならない手間である。地番=住所である住居表示未実施の地区はよいが、地番と住居表示は必ずしも一致せず、1筆の上に複数の住居表示があったり、逆に、何筆もの上に1つの住居表示があったりもする。ほかにも、物件の特定には、登記簿に付随する地図や建物図面も確認しなければならず、データを突き合わせる負担は小さくない。

住所からID表示のシステムを準備
デジ庁と不動産関係情報を整備・連携

不動産IDのルール整備に際しては、前述のとおり、全国の不動産を網羅する不動産登記簿の不動産番号を基礎に据え、不動産番号では特定しきれないものについて、それを特定するための追加ルールを設ける形をとった。そのため、賃貸物件の部屋単位に番号が振られることになり、特に生産性向上が課題の不動産仲介・管理のプレイヤーの活用が見込まれている。
不動産IDを組成するには、住所から登記簿の不動産番号を割り出す手間が課題だったが、国交省では、まず登記簿データの不備修正を終えた全国440自治体の物件を対象に、住所を打ち込むと、その物件の不動産IDが表示される「不動産ID確認システム」を準備した。住所だけでは物件を特定できないケースに対応し、床面積や階数で建物を絞り込んだり、地図上で建物を指定したりできる機能も実装する予定。今秋から試験運用を始め、会員参加する企業や自治体、団体にシステムを開放し、パイロット事業の実証も行う。今後2~3年を目途に、全国の物件にIDを展開する。
また、不動産IDは、国交省がデジタル庁、法務省とともに取り組む「不動産関係ベース・レジストリ」整備・活用の1つに位置づけられた。ベース・レジストリとは、データを標準化するなどの情報整備を指すが、不動産関係ベース・レジストリは、①正確な住所を確定し、住所に番号を付ける「アドレス・ベース・レジストリ」、②不動産登記簿を機械判読性のある電子データとして整備する「不動産登記ベース・レジストリ」、③不動産ID―の3つで構成する。それぞれ連携し、機能を充実させる関係だが、アドレス・ベース・レジストリは、表記ゆれへの対処や、町丁目・地番の変更時にタイムリーに情報を把握・公開する仕組みを整備するほか、住所情報と地図情報を紐付け、住居表示から地番が確認できるデータベースの構築を目指す。一方、不動産登記ベース・レジストリは、データ連携などの情報整備で、不動産IDや、都市空間情報を3次元デジタル化した「プラトー」の取組みを加速化するほか、農地管理を効率化したり、行政手続きに際し申請省略や書類の添付省略を見込む。試験システムを構築し、住所の正規化やマイナーな漢字を代替えする「文字の縮退」を進めつつ、登記情報システムを更新するタイミングで新システムへの移行を決めている。今後、アドレス・ベース・レジストリに対し地番情報、不動産IDには不動産登記簿の表題部情報をそれぞれ提供し、不動産IDはこれを受け、同IDを全国に網羅させる。デジタル庁、法務省との連携で、「不動産ID確認システム」を充実させることで、国交省では、「不動産IDが当たり前に使われるようになる」(不動産・建設経済局不動産市場整備課)としている。

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