マンションの管理組合や居住者組織が作成する防災計画を、法的計画として区市町村の地域防災計画に位置づける仕組みがある。東日本大震災後の2015年に改正された災害対策基本法で創設された地区防災計画制度である。一定のまとまりのある地区に居住する人たちの、自発的な防災活動が重要だという大震災の教訓が背景にある。制度創設から8年が経過し、町内会等を基盤とする地区防災計画の作成はある程度進んでいるが、マンションの管理組合や居住者組織を母体とするものはまだ少ない。昨年11月に自治体の地域防災会議で承認されたマンションの地区防災計画策定の過程と、普及に向けた取り組みを紹介する。
地区防災計画を策定したのはアリーナコースト管理組合(江戸川区、3棟432戸、1996~98年竣工)である。建物は新耐震設計基準で建設されているから、想定される首都直下地震で倒壊するおそれは少ないが、建設地の江戸川区は陸域の約7割が東京湾の干潮時の水位よりも低い、いわゆるゼロメートル地帯にあるため、河川の氾濫や高潮発生時には大きな被害が予想される。また区域のほとんどが大地震発生時に液状化する可能性があり、実際に2011年の東日本大震災では液状化による被害を受けたマンションがある((注)今回紹介するアリーナコーストは、浸水エリア外)。
アリーナコースト管理組合が本格的に防災に取り組みはじめたのは、東日本大震災を契機に理事会が防災チームを立ち上げ、翌年の管理組合総会で専門委員会として防災委員会を設置したことによる。防災委員会は理事会・総会の承認を得て自主防災組織の規約、自主防災組織の編成、理事会と防災組織の連携、被災時の災害対策本部の設置等についての制度インフラを順次整備した。2017年には管理組合が災害対策基本法による自主防災組織として江戸川区の認定を受けた。
自主防災組織に本部運営班等の7班を設け、被災時だけでなく平時の活動内容を定めることで、常に災害発生に備えることができるようにしている。中でも特長的なのは、賃借人を含む居住者全世帯が活動に参画するフロア担当制度を設けたことである。3棟の各階ごとに1名のフロア担当(計42名)が3カ月交代の輪番制で就任し、災害発生時には安否確認や災害対策本部への報告を行う*。3カ月に一度フロア担当が交代する都度、説明会を開催し、フロア担当の役割、アリーナコーストの災害リスク、初動対応システムの確認等を行うことで、居住者の防災意識の高揚や防災スキルの向上を計っている。フロア担当者説明会は2013年から21年12月までに36回開催している。こうすることで発災初動時に理事会や防災委員会のメンバーが不在の場合でも、仮災害対策本部を立ち上げることができる。また、防災広報活動として2017年から「防災かわら版」を2カ月に1度程度の頻度で全戸に配布している。※理事と防災委員は、フロア担当を兼務しない。
新時代の管理運営を探る55 アリーナコーストが地区防災計画を策定 江戸川区内マンション協議会は計画普及に向けて取り組み(下)へ続く
月刊マンションタイムズ 2月号