今年も“コロナ不安”は残るだろうが、世界的金融緩和を背景にした不動産市場の堅調は底堅く見える。しかし、新たな価値創造や成長分野を模索する企業間レースは加速する。そうした中、近年目立ち始めた大手デベロッパーによる新規事業立ち上げが何を意味し、何処に行くのかも注目点の1つだ。一方、大手から中小までDXに拍車が掛かるのは必至で、その正否が企業の命運を握る。大胆な経営判断を迫られる年になるともいえるのではないか。
気になる“コロナ貯蓄”のゆくえ
外出や旅行解禁で住宅市場活況も終焉?
大手住宅販売会社に共通しているのは、今のところ顧客の購入マインド自体に変化が見られないことからくる強い自信である。少なくとも2021年度下半期(2022年3月まで)は好況が継続するだろうとの見方が多い。ただ、業界の中にはこれまでコロナ禍でも住宅が売れてきた要因の根底にあるのは“コロナ貯蓄”という指摘もある。
コロナ貯蓄とは外食や旅行が制限されたために消費に回らず期せずして増えてしまった貯蓄のことである。日銀はこれを「強制貯蓄」と呼び、その額は2020年だけで20兆円に達したと発表した。その多くが例年レジャー支出の多い高所得層によるもの。それが富裕層やパワーカップルなどの住み替え需要を誘発し、住宅市場に活況をもたらしたというわけだ。コロナ貯蓄は2021年5月末には30兆円に達したという推測もある。
もしコロナが収束し、GoToキャンペーンの再開などにより旅行や外食の消費行動が元に戻れば“コロナ貯蓄”は消えていくので、住宅市況にとってはマイナス要因になるとの見方もできる。もっともそのときは、コロナによって打撃を受けていたオフィスやホテル、商業施設などの回復が見込まれるため、不動産市場全体ではバランスを保ち堅調を維持するとの見方もある。
大手が積極化する新規事業の立ち上げ
本業とのシナジーの大きさが将来を左右
コロナ収束が不動産市況にとって中立だとすれば、業界としては以前からの基本課題(人口減少による市場縮小、コストアップ、人財発掘など)への対応を強化していくしかない。その1つの答えが新規事業立ち上げによる次なる成長分野の模索である。特に積極化しているのが大手ディベロッパーだ。例えば、三井不動産は東京湾岸エリアを中心にマンション住民向けサービスとして移動式車両店舗を展開。いわば固定店舗とECとの中間ともいえる領域で〝新たな買い物体験〟を創出している。三井不動産の子会社が移動車両を出店者に貸し出し、今春までには約60店舗に拡大する計画だ。
三菱地所は社員にアイデアを提案してもらい、採択した場合は提案者などを社長とするベンチャーを立ち上げ事業化までをサポートする。2021年は過去最高の89件の応募があった。最近事業化された例としては瞑想スタジオの「Medicha」、農業の「MECアグリ」、マイクロツーリズムの「膝栗毛」などがある。三菱地所はこの社員による新規事業立ち上げ制度を今年度からグループ会社にまで拡大している。
ただ、こうした新規事業が伝統的な不動産領域からの脱却ということだけで終わってしまえば、会社全体へのインパクトは小さいだろう。この新たな価値創造が本業とのシナジーをどこまで大きくしていけるかが、大手といえどもその将来を左右する。
足元の堅調に油断は禁物 コロナ後は競争激化の住宅・不動産業界 (下)へ続く
不動産経済ファンドレビュー