賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(3)<br>―不動産業者が知っておきたい新法解説―<br>  森・濱田松本法律事務所 弁護士 佐伯優仁

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(2)
―不動産業者が知っておきたい新法解説―より続き)

(3)賃貸住宅管理業に関する登録制度の創設


(ア)「賃貸住宅管理業」とは


一定規模以上で営む場合に国土交通大臣の登録が必要となる「賃貸住宅管理業」は、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、次に掲げる業務(以下「管理業務」という。)を行う事業である(2条2項、3条)。
①委託の対象となる賃貸住宅の維持保全(住宅の居室およびその他の部分について、点検、清掃その他の維持を行い、および必要な修繕を行うことをいう。以下同じ。)を行う業務
②賃貸住宅の家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務(①に掲げ業務と併せて行うものに限る。)
②は①と併せて行うものに限られるため、②の業務のみ行う場合、その業務は管理業務に該当しない。一方で、①の業務のみまたは①および②の業務を行う場合、その業務は管理業務に該当する。
そして、管理業務の委託を受けることを内容とする契約は「管理受託契約」と定義される(12条1項)。

(イ)登録


賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受ける必要がある。ただし、事業規模が、事業の対象となる賃貸住宅の戸数その他の事項を勘案して省令で定める規模未満であるときは登録を受ける必要はない(3条1項)。具体的な基準は省令を待つ必要があるが、管理戸数が200戸未満の者は登録義務の適用を受けないものとされる予定である(局長答弁)注1注2。
登録の期間は5年で、更新した場合はさらに5年となり、以降も同様である(3条2項)。登録料は1件9万円である(登録免許税法別表1第151号の2)。
登録を受けるには、登録拒否事由に該当してはならない(6条1項)。重要と思われるものとしては、財産的基盤と業務管理者の選任であろう。財産的基盤の具体的な基準は省令に定められるが、①債務超過ではない(負債の合計額が資産の合計額を超えない)ことと、②支払不能に陥っていないことが求められ、財務諸表等で確認される予定である(局長答弁)。業務管理者については後述する。
なお、登録を受けた者は「賃貸住宅管理業者」と定義される(2条3項)。

(ウ)賃貸住宅管理業者に適用される


主な規制
(i)業務管理者の選任
賃貸住宅管理業者は、その営業所または事務所ごとに、業務管理者を選任する必要がある(12条1項)。業務管理者は、他の営業所または事務所の業務管理者となることができないので(同条3項)、営業所または事務所ごとに別の業務管理者を選任しなければならない。業務管理者がいない営業所または事務所では、管理受託契約を締結することができない(同条2項)。
業務管理者は、その事務を行うのに必要な知識および能力を有する者として賃貸住宅管理業に関する一定の実務の経験その他の省令で定める要件を備える者でなければならない(12条4項)。その具体的な要件は省令を待つ必要があるが、宅地建物取引士または賃貸不動産経営管理士であって、一定の講習を修了し、効果測定を行った者であること等を要件とすることが予定されている(局長答弁)。

(ii) 書面交付義務
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結する際には、相手方であるオーナーに対し、契約締結前および契約締結時に書面を交付する義務を負い、締結前にはその内容を説明する義務を負う(13条、14条)。ただし、締結前の説明・書面交付義務については、賃貸住宅管理業者である者その他の管理業務に係る専門的知識および経験を有すると認められる者として省令で定める者に対しては義務を負わない(13条1項括弧書き)。賃貸住宅管理業者の他にどのような者がこれに該当するのか省令に注目したい。なお、オーナーに対する説明は、業務管理者以外の者が行うことも可能である(局長答弁)。
両書面とも、オーナーの承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法により提供することができる(30条2項、31条2項)。
(iii) 財産の分別管理
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、整然と管理する方法として省令で定める方法に拠り、自己の固有財産および他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する同様の金銭と分別して管理することが求められる(16条)。
具体的な方法は省令を待つ必要があるが、たとえば契約ごとに個別の台帳を作成することまでは必要なく、帳簿上区分して出入金が整理されるような方法が想定されている(局長答弁)。
(iv)その他
賃貸住宅管理業者は、管理業務の再委託の禁止(15条)、オーナーへの定期報告(20条)等の義務を負う。
再委託の禁止は、委託を受けた管理業務の全部の再委託の禁止なので、一部の管理業務のみ委託することは妨げられていない。
オーナーへの定期報告は、管理業務の実施状況その他の省令で定める事項を、省令で定めるところにより報告するとされている注3。
(iv)監督・制裁
賃貸住宅管理業者に対して、国土交通大臣は、その業務の運営に関し業務改善命令を行うことができ(22条)、また、法令違反等に関し1年以内の業務停止命令または登録の取消しを行うことができる(23条)。業務停止命令または登録の取消し処分は公告される(25条)。
さらに、国土交通大臣による報告徴収および立入検査の規定もある(26条)。

(4)経過措置


 本法の賃貸住宅管理業に関する2021年6月施行の際現に賃貸住宅管理業を営んでいる者は、その施行日から起算して1年間(最長で2022年6月19日まで)は登録を受けずに賃貸住宅管理業を営むことができる(附則2条1項)。この場合、賃貸住宅管理業を営んでいる者は、登録を受けるまでは賃貸住宅管理業者とみなされ、また、その営業所もしくは事務所を代表する者またはこれに準ずる地位にある者は、業務管理者とみなされる(附則2条2項)。
2021年6月施行前に締結された管理受託契約については、賃貸住宅管理業を営む業者は契約締結時書面の交付義務とオーナーへの定期報告の義務を負わない(附則3条1項)。逆に言うと、その他の義務は負うことになる。
本法のマスターリース契約に関する規定の2020年12月施行前に締結された特定賃貸借契約については、サブリース業者は契約締結時書面の交付義務を負わない(附則3条2項)。
(つづく)

注1登録が義務づけられない小規模事業者についても、任意で登録を受けることは妨げられず、国土交通省としてはむしろ登録を受けることを推奨していくとされている(局長答弁)。
注2現在賃貸住宅管理業を営んでいる者は1万社程度で、そのうち管理戸数が200戸以上の者は5000~6000社程度(戸数ベースでは約98%)である(局長答弁)。
注3個別にオーナーとの契約等で定められたものを義務付けることとするが、少なくとも年1回以上の報告は必要と考えられている。また、ガイドラインにおいて、たとえば、管理業務として家賃等の収受を行う場合には毎月の報告、それ以外の場合にあっても四半期ごと以上の頻度で報告を行うことが推奨される予定である(局長答弁)。

2020/9/23 不動産経済FAX-LINE 

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