不動産業界も電子化が進む④ 売買契約書面電子化、改ざん予防はどうするか

電子契約は投資用マンションで活発利用
市場の拡大はハウスメーカーが鍵握る


 「電子契約はこう使われている」と題し、ドキュサイン・ジャパンの笹林信宏氏が国内外、不動産賃貸・売買における活用事例を講演した。
 ドキュサイン社は2003年に創業した。元々不動産の売買契約から始まった会社で、アメリカでは不動産売買契約の95%がドキュサインになっている。そこから一般の企業に広がっていった。弊社が供給するドキュサインは、いつでもどこでも利用可能なオンラインサービスで、紙とマニュアル作業だった合意文書の発行・署名・管理をクラウド化、業務プロセスを変革し、ペーパーレスを実現するサービスだ。
 契約書(ワード、エクセル、PDF等)をドキュサインの空間に入れた時点で改ざんできないデジタルデータになる。そのデータに対して、アクセスの証跡を残す。何の文書を、だれがいつ、どのような手順で、どこで署名したのかをサーバーのログで取る。その書面をとったあと、PDFでダウンロードが可能で、改ざん防止のデジタル証明書が入れられたものが出力される。また誰のメールアドレスでどこのIPアドレスをたどって署名したといった痕跡や、時刻も位置もわかる。
不動産で電子署名が認められている範囲は、当初は契約更新や解約の退去手続きなど、宅建業法とは関係のない範疇で使われていたものが多かった。その後、不動産の売買、主に投資用マンションで活発に使われている。今年の5月に法改正が進んでほとんどが使えるようになる。
 投資用マンションのGAテクノロジーズは、自社で開発した基幹システムと連携し、顧客とはドキュサインで売買契約以外にクーリングオフの説明書や管理委託契約書、個人情報同意書をまとめて締結している。熊本のコスギ不動産は、管理戸数が1万6000戸あり、不動産賃貸の契約更新から事務手数料の支払いまで、一連のプロセスをコロナ前の2019年からデジタル化している。
 電子契約はこれまで管理、投資用マンション、海外不動産などいろいろなところで伸びてきているが、一番大きい市場が、ハウスメーカー。投資用マンションの市場と規模が一桁違うので、市場が拡大するには今年以降、ここがどれだけ伸びるかだ。

不動産業界はハイブリット型契約が望ましい
DX化に業務面、法務面、業法上の課題あり


「デジタルが不動産取引を変える」と題し、デジタルガレージの青山太紀氏が講演した。
 契約において、紙から電子化導入にあたっての課題は、不動産業界にはこれまでの商習慣、大きく変える機会がなかったため、業務フローを変える必要性がなかった。その中で、コロナ禍によるテレワーク推進、非対面対応など、政府・他業界をはじめ、DX化への急速なシフトが進められている。不動産業界も同じようにDX化の急激なシフトが求められており、すべての契約、販売行為がデジタルに置き換わるのは難しい。そのため不動産業界では、デジタル、非デジタルを取り入れたハイブリット型の契約スタイルが望ましいと考える。
 業務上のDX化における課題は、まず業務オペレーション・フローを整備する必要がある。どのタイミングで顧客に電子化の合意を取得するかなど、細かなフローの整備が必要だ。2つ目は関係部署への理解促進、啓蒙活動。契約書の電子化にあたって、業務担当者だけでなく法務関連、財務関連、そうした関係各所への理解促進が必ず必要だ。3つ目はCRM(基幹素ステム)との連携も大きな課題になってくる。現在使っている顧客管理や業務管理システムとの連携も併せて考えていく必要がある。また大手を中心として業界全体のDX化、業界の垣根を超えて進めていく必要があるのではないか。
 法務面の課題は、契約を電子化するにあたって、契約書類そのものを電子化対応させる必要がある。使うソフトや契約書そのものの文言も電子化に合わせた修正が必要になる。また、各社ごとに電子契約の法的効力、安全面等を整備する必要がある。現状、本人確認は他意愛の元で行われているが、そうしたものを引き続き対面で行い、契約のみを電子契約で行うことも検討の1つだろう。
 業法上の課題は、現在の宅建業法では書面交付の必要性がある。この点電子化あたってまだ整備されていない。こうしたところも法律改正にわせて業務整えていく必要がある。5月に宅建業法の改正あるが、この情報も徐々に行政から開示されているのでタイムリーにキャッチして、逐次検討していく必要がある。
 不動産おけるハイブリッドな契約スタイルとして、すべての契約を電子化するのではなく、電子化する契約としない契約を合わせて、対面で行う機会と非対面で行う機会を柔軟に設けることで、各売主、買主間で円滑な電子契約が迎えられるのではないか。

2022/2/25 不動産経済ファンドレビュー

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