「広くて安い」からグロス重視へ ―首都圏マンション市場の20年と今後(上)


首都圏の分譲マンション市場は、景気動向やライフスタイルに合わせて変化を続けている。足元でもコロナを機に、生活スタイルや住まいに対する価値観の変化が起こりつつあり、デベロッパー各社はエリア戦略や商品企画戦略を迫られている。大量供給時代から始まった2001年以降のマーケットを振り返り、今後の可能性を見る。


専有面積圧縮傾向強まる首都圏市場
都心、郊外とも持ち家志向が高まる

 不動産経済研究所のデータによると、首都圏マンションの2001年~2005年の平均供給戸数は8万6106戸だったが、2020~2021年は3万戸前後が見込まれ、実に65%も減っている。分譲単価は176.9万円から311.9万円へ76%上昇した。分譲価格は30~50%上昇し、上昇幅は都心で3000~7000万円以上、その他23区は2000万円前後、都下・埼玉は1500万円、神奈川は1700万円、千葉は1000万円それぞれ上昇した。この間、専有面積は75.9㎡から66.2㎡に13%縮小しており、価格上昇分をカバーすべく面積の圧縮傾向が強まった。
 この20年間で市場環境は大きく変わった。調査会社のトータルブレインは大きく6つの期間に分けて市場を分析している。1つ目は2001~2005年の旧価格時代。8万戸供給が続くなか、割安な価格水準を武器に販売は好調、都心から郊外まで「広くて安い」マンションが大量供給された。実際に80㎡超が全体の37%を占め、都内都心でも湾岸を中心に大型タワーマンションが割安に次々と供給され、都心回帰が進んだ。次に2006~2008年。新価格からリーマン・ショックに続く時代で、マンション用地不足による土地高騰と建築費の上昇により、分譲価格が急上昇し、供給エリアが急激に郊外化。千葉・埼玉の比率が3割を占めた。2009~2012年はリーマン後のデフレ期。リーマン後、郊外マンションが売れず、アウトレット処分されたため、郊外市場から撤退するデベロッパーが続出。郊外マーケットが敬遠され、価格低下とともに好立地化が進み、供給エリアの都内都心回帰が急激に進行。23区のみで47%を占めた。2013~2015年はアベノミクス景気に支えられた。異次元金融緩和で株価が上昇、富裕層が資産効果で都心不動産を購入、都心ハイグレード物件がマーケットをけん引し、マンションの売れ行きが急激に好転、価格も上昇に転じた。2016~2019年は世界的な金融緩和で、都心を中心に不動産価格が高騰。マンション価格も高騰し、販売は長期化傾向となったが、都心は海外富裕層の購入増加により、価格が上昇しても販売は好調。富裕層・アッパーサラリーマン、パワーカップル等の購入意欲は高く、利便性重視志向でますます都心回帰が加速した。そして2020~2021年はコロナ禍時代。賃貸脱出志向が高まり、割安な郊外物件のニーズが高まった。それに伴い郊外マーケットの売れ行きが好転、都内都心はさらなる価格上昇で都心と郊外の価格格差がさらに拡大した。デベロッパーは郊外の売れ行き好調も手伝い、供給を郊外エリアに拡大する動きも出てきた。足元では千葉での供給増加が目立ち、供給比率は過去最高の16%まで高まっている。
この20年で、マンションの商品企画も変わった。未婚化・少子化が進み単身・DINKS等、世帯人員数が減少し、4人家族標準から、1人、2人、3人家族標準に変化。3LDKや4LDKから1LDK、2LDK、3LDKでも面積を圧縮したものが主流だ。80、90㎡以上の広面積商品は激減し、50~60㎡台の割合が増加。30㎡台の比率もジワリと高まっている。体験を重視する「コト消費」や、物が少ないコンパクトな生活スタイルへの転換、自分の時間のために移動時間を買う発想が強まり、多少面積を圧縮してでも交通利便性がより重視されている。ここへきてコロナによる外出自粛、在宅時間が多かったことから、住宅に対する関心が高まり、都心、郊外とも持ち家志向が高まった。
 購入意欲を高める背景には、住宅ローン金利が大幅に低下していることも大きい。フラット35の金利は2004年1月に3.26%だったものが2021年8月には0.99%まで下がっている。仮に2004年に3000万円を借り入れた場合の月々返済額で試算すると、2021年8月に借り入れた場合は4300万円の借入が可能だ。現在、分譲価格が上昇する郊外部でも好調に販売が推移するのは、低金利による借入可能範囲に収まっているからと言われ、足元では分譲価格が上限と見られるなか、郊外部でもさらに専有面積の縮小が予想されている。

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2021/11/5 不動産経済ファンドレビュー

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