経営圧迫進む高齢者住宅・介護市場―気になる収支構造と、迫り来る「2025年問題」(下)

経営圧迫進む高齢者住宅・介護市場―気になる収支構造と、迫り来る「2025年問題」(上)より続く

進む業界再編、大手による買収が活発化
規模のメリットだけでは解決しにくい問題も


 建物の経年と共に入居率の低下が進む施設では経営が悪化し、事業からの撤退が増え始めた。ただ、介護を必要とする高齢者が暮らす施設を閉鎖してしまうことは難しい。そのため、近年は大手事業者による業界の再編が進んでいる。例えばSONPOケアは、ここ数年でメッセージ、アール介護、ワタミの介護、東京建物シニアライフサポートを傘下におさめた。ベネッセスタイルケアは、伸こう会グラニー&グランダ、ゼクスコミュニティを買収。オリックスリビングはオリックスグループを離れて大和証券グループに入った。
 このように大手による中小の買収が進んでいるのは、規模のメリットを生かすことでしか難局を乗り切ることができなくなりつつある業界の実態をうかがわせる。具体的には営業拠点の集約による効率化、従業員の集中研修、資材一括購入によるコスト削減などだ。ただし、高齢者住宅事業は費用の90%が人件費や委託外注費、施設の保有コストといった固定費で占められるため、費用削減による損益改善にも限界がある。特に介護型は人件費だけで6割程度に達する。従って経営的には介護スタッフ人数の適正確保、待遇改善、離職防止などが最重要課題となる。また、規模が大きくなればなるほどホスピタリティの徹底など従業員の質的レベルを均一化する難しさもある。

健康寿命と平均寿命の差縮小が国の目標
人材不足など「2025年問題」乗り切れるか


 現在、日本人の健康寿命と平均寿命の差は男性が9.22歳、女性が12.77歳。この差を縮めていく方向(健康寿命を伸ばす)に国も力を入れ始めた。介護保険の改定では、健康体操などを取り入れ、要介護度が改善された場合には報酬をアップすることになっている。ただし、その証明は難しいという。また、前述のように、健康寿命が伸びればそれだけ、事業者としては経営が厳しくなるという矛盾もある。まさに高齢者住宅・介護施設が抱える構造上の問題だ。
 介護サービスの方式には、介護提供者が施設の専属スタッフである「特定施設」と、訪問介護事業所からのヘルパー派遣となる「在宅系サービス」とに分かれる。サ高住などの賃貸型では後者が多い。特定施設であれば介護保険で総括報酬となっているので経営が安定しやすいが、在宅系では個々の介護サービスを一件ずつ積み上げていくので報酬総額が安定しない。そして、特定施設は現在、自治体による厳しい総量規制が掛けられている。
 目前に迫る「2025年問題」(団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となるため、介護施設、介護要員が大幅の不足すること)を乗り切ることができるのか、事態は深刻だ。厚生労働省によれば、2025年には介護要員に対する需要が253万人となるのに対し、供給できる人数は215万人と推計されており、38万人も不足する。介護現場は「3K」(きつい・汚い・危険)というイメージが定着しているため、若い人材の確保が難しい。若手の流入が少ないので、現職介護要員の高齢化も進んでいる。
 そのため、介護スタッフの給料アップと同時に、力仕事を助けるロボットスーツ導入による職員の負担軽減、AI(人工知能)を活用したケアプラン作成、排せつ予兆検知、24時間見守りロボットなど様々なテクノロジーの開発がこれからの高齢者住宅&介護事業を維持する切り札となる。

2021/7/15 不動産経済ファンドレビュー

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