シリーズ;空き家活用新時代 ⑦空き家問題は解決、コロナで奪い合いの様相ー「空き家売ります」掲示板の家いちば社長・藤木哲也氏(中)
家いちば社長・藤木氏

シリーズ;空き家活用新時代 ⑥より続く

増加を続ける空き家の対策を巡っては、「空家対策特措法」などの法整備、税制や助成金、空き家バンクなど様々な制度が生まれ、民間でも多種多様な空き家関連ビジネスが誕生している。最前線に立つプレーヤーの声を聞いた。「空き家売ります」という掲示板「家いちば」を運営する、家いちば社長の藤木哲也氏に、空き家の売り買いをマッチングさせるコツやコロナ禍におけるサイトの運営状況などについて聞いた。

空き家は奪い合い

ー家いちばの利用状況について。コロナの影響は

成約に至った空き家(家いちば提供)

藤木氏 今は空き家の奪い合いの様相を呈している。こうした状況になることは、いつかは現実になるだろうとは思っていたが、コロナ禍によって想定よりも早く実現した。しかもすごい勢いだ。例えばこれまでは1、2人だった買い手候補が5〜10人に増えて、売り手が強気になった。北海道・旭川のある空き家は、最初の値付けが80万円。だがあまりに購入希望者が多くて、最終的に120万円でマッチングした。

ー金額が競り上がるか

藤木氏 全てがそうでもない。売り手から見れば、困っている空き家はこちらがお金を出してもいいぐらいに思っている人もいる。その証拠に「0円物件」も多数存在する。こうした物件は問い合わがせ何百件と来たりする。それで現地へ見に行く人は何十人にもなり、値段をつけていく。ただし売主はもっとも高い値段を出した人に売却するとは限らない。少し不思議に思うが、売り手の声を聞くと腑に落ちる。

 売主は現地で全ての購入検討者に会う。例え高値のオファーでも、その人に売りたくない。一方であまり予算がない人でも、この人になら使って欲しい、と思われることがよくある。先祖代々の実家で何をするか分からないような人よりも大事に使ってくれそうだなとか、人柄の良さも大事な要素だ。そういう人が現れると、売り手としても嬉しい。ある意味プライスレスの感覚だ。こういう現場のやりとりを見聞きしていると、国が講じる様々な施策、減税だとか補助金だとか、お金でなんとかしようとしても効かない、というのはそういうところではないか。空き家の所有者はむしろ「お金をあげるからいい人を探してきてほしい」と思っている。 

ー結局空き家問題はどうなるか

成約に至った空き家(家いちば提供)

藤木氏 空き家問題は解決が見えており、未来は明るい。だから税金を使って空き家対策をやるということはとてもナンセンスに映る。大事な税金は医療や福祉など、もっと必要なところに向けるべきだ。話は変わるが、コンパクトシティと称した地方の中心部の再開発が各地で進められている。これにも多額の税金が投入される。新たに街を作るデベロッパーが効率的に儲かる仕組みになっている。確かに再開発は建設業など多くの雇用を生むから一定の経済効果はあるが、発想が昭和のままだ。低成長時代の日本においては、田舎の不便な空き家を活用する方がサスティナブルで時代に合っている。再開発よりも既存のインフラを維持するほうが投資額もリスクも小さく、経済合理性がある。空き家バンクもいずれいらなくなるだろう。役所の人が不動産屋の真似事をして、市民から託されている貴重な時間を潰すのはもったいない。 

ー家いちばは商談までは直接、最終的な契約段階になって仲介が入る

藤木氏 直接商談する仕掛けが、空き家には向いている。ただし契約はプロがやる。そこは力を入れている。田舎の空き家の契約書類は大変だ。そもそも建物未登記が普通と言っていいくらい。土地の境界もあいまいで、それでいて農地や市街化調整区域などの問題にからむことも多い。そういう不動産を取引するにはノウハウが必要で、スタッフの教育には膨大な時間を掛けている。現地には家いちばが手配する宅建士が必ず行く。田舎の不動産の価格は安いので、比例して手数料も低くなってしまう。それでも商売でやっている以上、利益を出さないといけないので、たとえゼロ円物件でも最低で両者から合計で14万円の基本料をいただく料金体系について事前に了承してもらっている。2年前の国の通達で、空き家の仲介に限り18万円を上限に仲介報酬を超えて受領しても良くなり、国も法律を時代に合わせて変えていく方向にはあるようだ。家いちばは、その考えを先取りしていると言える。 

ーそれで利益は出るのか

家いちば・藤木社長

藤木氏 14万円でやりくりするにはそれなりの工夫と努力が必要で、一般の不動産会社ではそれでも扱うことが難しいと言うかもしれない。これまで5年掛けて人材育成とシステムを整備してきた。今後、家いちばをスケールさせていたくために、各地の宅建業者と連携することも検討している。一緒にやりたいという不動産会社が既に全国に多くいる。家いちばのビジネスは地域の雇用を生む。地元の不動産会社や司法書士も仕事が増えるし、リフォームなども発生する。空き家の名義が動くだけで経済が動く。シリーズ;空き家活用新時代 ⑧へ続く

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