シリーズ;空き家活用新時代⑥ 空き家問題は社会問題ではないー「空き家売ります」掲示板の家いちば社長・藤木哲也氏(上)
家いちば社長・藤木氏

増加を続ける空き家の対策を巡っては、「空家対策特措法」などの法整備、税制や助成金、空き家バンクなど様々な制度が生まれ、民間でも多種多様な空き家関連ビジネスが誕生している。最前線に立つプレーヤーの声を聞いた。「空き家売ります」という掲示板「家いちば」を運営する、家いちば社長の藤木哲也氏に、空き家の売り買いをマッチングさせるコツやコロナ禍におけるサイトの運営状況などについて聞いた。

 空き家問題は社会問題ではなく個人的な問題

ー全国の空き家の数は800万戸を超え、社会問題だと認識されている

藤木氏 まず空き家は未利用不動産ではない。低利用不動産だ。本当の未利用というのは空き家問題における空き家とは違うカテゴリーだ。800万戸超の空き家は住宅だ。数字を見ればたくさん空き家があるということになるが、基本的に世帯数と住戸数のギャップでしかない。利用形態、例えばセカンドハウスとしての利用は統計上は無視されている。そして賃貸住宅もこの数字に入っている。そのことが世間でどこまで認識されているか。半分は賃貸住宅の空室であり、それはアパートの作りすぎという、本来の空き家問題とは別の種類のものだ。アパートの空室は単に、大家の収入が無くなるというだけだ。一軒家の空き家は半分のおよそ400万戸だ。空き家問題はそちらのイメージで捉えるべきだ。

ー空き家問題の本質をどう捉えているか

藤木氏 行政及び民間の様々なプレーヤーが空き家問題に取り組んでいるが、目指す方向性がそれぞれで異なり、バラバラな動きをしている。その理由は、国を含めて空き家問題のゴールを誰も定義してないからだ。目的によって解決手段は変わる。共通のゴールを持ってないので、それぞれの打ち手がバラバラになるのは当然。たとえばとにかく空き家の絶対数を減らすということなら、人口全体が減っているわけなのでかたっぱしから除却していくしかない。ではそれを税金で壊すのか?? 空き家を解体するのに一軒あたり100〜200万円は掛かる。全部で何百兆円も掛かる。その金を税金でやることに意味があるのかだ。

ー人口減少と人の移動で空き家が発生し続けている

成約に至った空き家(家いちば提供)

藤木氏 極論として、空き家があって何が問題なのか?ということだ。空き家は必ず所有者がいる。空き家が発生する理由は、その所有者が放置しているから、それだけだ。その所有者が放置しなければ空き家にはならない。だから空き家問題は社会的な問題ではなく、個人的な問題だ。そして空き家の発生は人の死と直結している。死亡者数とリンクしている。毎年130万人が死んでいるにも関わらず、一方でほぼ同じ数の百万戸近い新築住宅が生まれている。それなら空き家が増加し続けるわけだ。人口が増えていた時代から、団塊世代の方々が今後亡くなっていく時期となっていて、加速度的に空き家が増えてくる。

ー空き家は「負動産」ともされるが、所有者の悩みは多いのでは? 

藤木氏 空き家をどうするか、決めるのは所有者本人だ。所有者がアクションを起こせば空き家問題は解消する。多くの空き家オーナーは、アクションを起こさない。そのままでいいと思っている。そもそも放置していても困らないからだ。その視点がとても大事だ。空き家を持っている人はかわいそうだとか、大変だな、とか思う人もいるかもしれないが、空き家を持つ大多数の所有者は困ってなんかいない、という見方も必要だ。空き家とは言え家を持っている人だ。本当に困っている人なら空き家にでも住みたいはずだ。そういう目で見るべきだ。

空き家バンクはオワコン化

ー「空家対策特措法」施行から5年が経過した

藤木氏 倒壊の危険性があるとか衛生上の問題があるとか、そんな「特定空家」の除却を進めるための法律でしかなく、これは空き家400万戸のうちのごく一部だ。しかもいまだに代執行されたらテレビのニュースになるぐらい、事例が少ない。特定空家のような建物は、地域のことを考えると、解体除去などして迅速に解消していくことは必要だろう。ただしそんな空き家を人を使って、税金を使って、一生懸命解体する意味はあるのだろうか。国は空き家を流通させるために税金を上げようとしている。空き家を解体し更地になると固定資産税がおよそ6倍になる。ただし所有者はお金にも困っていないから、何も変わらない。田舎の土地の税金なんて大した額ではない。ある統計で、家を放置している人の7割が不動産屋にすら相談していないという。多くの空き家所有者はなんのアクションもしていない。一方で不動産屋に相談しても、その空き家を扱ってくれないとか、買う人がいないと思い込んでいる部分もあるかもしれない。亡くなった祖父母の家とかなら、遺品や生活道具を片付けようとするだろう。仕事が休みの週末だけ、少しずつやろうというスタンスでいると、あっという間に4、5年は掛かる。片付けの手間が掛かるから、しばらくおいておこうか、ということになる。 要するに問題の根源は所有者なのだ。空き家問題はそういう視点から見ることが大事だ。

ー「空き家バンク」サイトが多数立ち上がっている 

家いちば・藤木社長

藤木氏 そもそも空き家問題の解決という視点で見れば、県や市町村単位で独自の空き家バンクのサイトは必要ない。まとめて一つあれば事たりるはずだ。それがなぜできないかと言えば、移住促進が基本姿勢だからだ。さらに空き家バンクを運営していくためには、役所の人が現場でせっせと動かないといけない。そのための人件費が掛かっており、原資は税金だ。この時点で無駄が多い。逆にいうと移住だけで空き家問題は解決しない。人口減少社会であり、どこかが増えれば、どこかが減るということになる。自治体の空き家バンクは移住者の奪い合いでしなかく、「オワコン」と化している。これで「日本の」空き家問題が解決していくイメージが私には湧かない。

ー家いちばについて

藤木氏 空き家をちゃんと流通させる仕組みがないのなら、自分で作ればいいと思って作ったのが、家いちばだ。2015年の10月にローンチした。家いちばのスタンスは、常に売り手目線だ。買い手目線で見れば、こんな田舎のボロ物件を買う人がいるとは思えないが、売り手が物件を出せばまずは流通する。そうすると中古自動車並みに値段で家が買えるから、ほしいという人がいる。買う人の目的が移住だろうが、セカンドハウスだろうが、DIYだろうが、何でもいい。まずは流通させることが大事だ。セカンドハウスだったら実際に利用されるのは年に数日かもしれない。だが空き家問題のゴールは移住だけなのだろうか?住み続けていることが前提となってしまうと、人口減少下の日本では解決の糸口が見えない。活用したいという人の手に渡り、名義が変わればそれはもはや空き家ではないという考え方もある。少なくとも金を出して買っている。お荷物のままにさせておくよりも、積極的に名義を変えて、他人の手に渡った瞬間に明らかに何かが変わる。少なくとも、売った方は安堵し、買った方は楽しみが増えてワクワクしている。両者が「幸せ」になれるなら、それでいいのではないか。家いちばの空き家問題のゴールはそんな「国民の幸福度の総和」で考えるつもりだ。

ー発想を変えていこうと。

藤木氏 一人でセカンドハウスを2つ3つ持てばいい。家いちばなら数十万円で家が買える。セカンドハウスは別荘、別荘は金持ちの道楽だという感覚は捨てていただければ。週末の拠点として、あるいは自然災害の避難場所として活用したり。現代は田舎の実家も減っている。いざという時に移り住める場所も必要で、「田舎の実家」は自分で手配する時代なのかもしれない。

ー多拠点生活、デュアルライフという言葉がある

藤木氏 今後もっと普及し、当たり前の暮らし方になる。リクルートの調査によるとデュアルライフをしてみたいという意向者がなんと17%もいる。仮に17%もなくて、10世帯のうちの1世帯だけでもデュアルライフを実践してもらえれば、400万件の空き家が一瞬でなくなる計算だ。家いちばでは、2、3の空き家を持って多拠点生活を楽しんでいるような人が珍しくない。アーリーアダプターの人たちだ。都会のマンションを買う時に1坪でも小さくするだけで、200万円くらい浮く。その200万円があれば、家いちばで家を2、3件買うことができる。数件購入して週末ローテーションすれば楽しい暮らしを送ることができる。気が付いている人はもうやっているし、そうでない人も薄々気づき始めた。そうなると都心の拠点としてのマンションは1ルームでもいいかもしれない。シリーズ;空き家活用新時代⑦に続く

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