シリーズ;空き家活用新時代⑤ 空き家バンク利用ニーズ拡大、求められる自治体の役割とはーLIFULL地方創生・田中百氏(下)
LIFULL・田中百(たなか・もも)氏

シリーズ;空き家活用新時代④ 空き家バンク利用者数はコロナ前比で1.6倍にーLIFULL地方創生・田中百氏(上)より続く

空き家対策特別措置法がスタートして5年が経過し民間でも様々な空き家関連ビジネスが誕生している。そこで最前線に立つプレーヤーの声を聞いた。全国版空き家バンクの運営や地域交流拠点などを展開する、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S (ライフル ホームズ)」を運営する、LIFULL(ライフル)・地方創生推進部の田中百(たなか・もも)氏に、空き家バンクの運営状況や、地方自治体の取組み姿勢などについて聞いた。

―日本の空き家の現状について

田中氏 空き家の課題解決の過渡期にある。2017年の空き家バンク設立当初、自治体の実施状況は62%の自治体だったが、今は75%弱まで伸びてきている。都道府県が運営するバンクを含めて1300の空き家バンクがある。自治体の取り組みはゆっくりだが広がってきている。当社が空き家バンクを始めた当初は、それは何だと聞き返された。その頃から考えると展開が広がっている。自治体ごとに取り組みの差がはっきりと出てきた印象がある。全国版に入れ替えてマッチングを伸ばす自治体もあるなど、積極的な自治体もあれば、消極的な自治体もある。全国でみれば空き家の数の濃淡などそんなに差はないはずだが、自治体でやる気の差が出てきている

―自治体の取組み度合いの差をどうみるか

田中氏 自治体の財政状況とかもあるのかなと思う。空き家バンクは掲載件数が多ければ多いほどユーザーからの反響が増える傾向にある。自治体にとっては問い合わせの数を増やすには空き家の情報をスピーディに探してどんどん掲載してければいいが、これがスローなペースだと効果が感じられにくいのかと思う。都道府県別でみても若干温度差がある。知事が旗ふりしている県もあれば、各自治体まかせというとこもあり、そこでも差が生まれるのかもしれない。

 大きな自治体だと空き家バンクに載せるまでもなく民間事業者が一般流通に乗せるので、一生懸命やらなくてもいいのかもしれないが、人口減が著しい、人を呼ばないといけないという危機感持っているような、小さな自治体の方が積極的に取り組んでいる印象だ。空き家バンク見にくる人は増えている一方で、自治体数の伸びと掲載数の伸びは緩やかだ。もっと物件数を増やしてくれれば、マッチングも増えるだろう。昨年から空き家バンク掲載された物件を買うと国から補助(グリーン住宅ポイント)が出る制度が始まった。自治体の取り組みが広がることを期待している。 

―都道府県の役割は何か

田中氏 そもそも地方における空き家対策は、住宅対策というよりもどちらかと言えば、移住支援の部署が担当しているケースが大半だ。自治体だと人口をいかに増やすか、そちらが対策の軸となる。全国的に人口減で移住者の取り合いが加速している。移住で人気が高い県といえば、例えば長野県が挙げられる。長野は土地も広くて自然が豊か、新幹線で東京にもすぐ出られるという魅力を前面に打ち出している。すでに県版の空き家バンクも立ち上げており、移住ニーズと空き家の増加をうまくマッチングさせている。空き家の数も減らせるし移住者も増やせるという狙いだ。知事がハッパを掛けると、自治体の対応も変わってくる。

―これからの空き家対策どうすればいいか

田中氏 空き家バンクのユーザーの注目は集まっているから、自治体には把握している空き家情報を、もっと公開していくことが重要になると思う。そのためには、所有者の意向を確認しないといけないので、所有者の意向をヒアリングできる体制づくりが必要になる。所有者の意向を聞くスタッフのスキルもいる。そしてそもそも所有者がどこにいるのかわからない、所有者不明問題も顕在化している。空家対策でやるべきことは多岐にわたっている。自治体職員のスキル向上と、所有者不明を解決するための手続きの簡素化など、やることの圧縮によって、所有者の意向を掴み、空き家情報を見える化していくことが重要だと思っている。

―自治体職員は普通の公務員だ

田中氏 一般的な公務員で異動もあり、宅建業の資格もないのに、所有者から情報の聞き取りをして、空き家バンクに登録しなくてはいけない。このためスキル不足は常に問題となる。当社では人材育成の講座などでサポートしているが、そもそも公的機関が行うには限界もあり、そこは専門の団体に任せていくことなども必要かとは思う。LIFULLで連携する自治体に提案しているのは、専門人材の育成。空き家の相談窓口を設けて、所有者から相談受けて、活用希望者に情報を渡す。それだけでも仕事になる。専門人材は公務員でなくとも、地域で意欲のある人を担い手として、行政はその人に対して委託する。このように事業としてやっていくというのが必要なのではないか。実例として、LIFULLと連携している奈良県には「空き家コンシェルジュ」というNPOがあり、そこが奈良県の自治体の空き家相談業務を請け負っている。そのNPOの窓口へ行けば所有者も利用希望者も一括して相談できるという体制が組めている。 

―そもそも自治体は地域の空き家情報は全て把握しているのか

田中氏 空家対策特措法で自治体には調査義務がある。固定資産税通知書で空き家と思しき家にチラシ入れるなどして、税務課と連携した調査を行ったり、地域の自治会にお願いして、空き家の物件を見て回ってもらってもらう、といったことを行っている。だが全てが全て所有者にあたれるわけでないので、空き家かどうかははっきりしたことはわからない。自治体で所有者にあたることができて、所有者に利用意向を聞いてから、それでやっと空き家バンクに情報として載る。自治体にヒアリングすると、自治体が把握している空き家情報のうち、空き家バンク載ることができるのは1割以下だと聞いている。どの自治体でも、利用したい人の数はバンクに掲載されている物件数よりも多い。利用したい人が待っているのは確実なので、そこを啓発して情報の見える化を進めるべきだと思う。 

―行政への要望は

田中氏 別の視点から考えると、自治体が空き家の希望者向けに用意している「空き家活用補助金」のような補助金の類は、その多くが「住民票を移したら」という条件付きだ。人口減少社会だし、補助金利用を移住者に限定していくのは少々ハードルが高いのではないか。今は2拠点居住とか民泊施設とかコワーキング施設であるとか、転用もできる。当社はそういう提案も行っているのでその辺りの活動についても補助金などで支援をしていただけたらと思う。国も旗を振って、自治体向けに「地方創生テレワーク交付金」が出ていて、地方へ人の流れは生まれている。移住に拘り過ぎない現実的な政策が望ましい。

※田中 百(たなか・もも)
地方創生推進部空き家プラットフォームグループに所属。
新卒で農林水産省に入省し地方創生関連業務等に携わった後、2018年にLIFULL入社。全国の市町村向けの空き家対策事業、地域活性化事業の企画・運営を担う。

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