シリーズ;相続登記義務化をどうみるか④  現にある「所有者不明土地問題」解決は困難

相続登記義務化に関連する民法・不動産登記法改正、及び「土地国庫帰属法」が国会で成立した。司法書士の全国組織である日本司法書士会連合会ではフリーダイヤルによる相続登記の相談を設けてあらゆる問い合わせに対応していくという。では実際に司法書士の現場は制度改正をどうみているのだろうか。相続における税務や登記などをワンストップで対応する、一般社団法人相続・事業承継お助けセンター(代表理事=鷹取正典税理士)に所属する司法書士の吉田研三(よしだ・けんぞう)氏、同じく司法書士の土田慧(つちだ・さとし)氏、代表の鷹取税理士に話を聞いた。

(シリーズ;相続登記義務化をどうみるか③に続く)

― 一連の相続登記義務化で、どのような案件の依頼がふえそうか

吉田氏 古い物件の依頼が増えそうな気がする。相続が発生してから数十年経っているとか、ずっと放置していた物件などだ。科料が掛かるようになると、相続人は放ってはおけないだろう。今は相続発生から1年とか2年といった案件が圧倒的に多い。5年前に亡くなったという登記が全体の相続登記の1割くらい、10年前以前になるとかなり珍しい。今後はしばらく放置していた相続の案件が増えるのかもしれない。

土田氏 相続の時点が昔であればあるほど、必要な書類が増える。戸籍の附表とか、保管期間が5年とかで、それを過ぎると削除されたり、それがないと権利証が必要になったりする。他の相続人が亡くなっていたりとかすると、さらに必要な書類が増えて面倒な案件になる。もしも遺産分割協議が行われていたとしても、書類がなければ子供たちはなにもできない。ややこしいのが増えるとは思う。手続き自体は、データが住基ネットに全部繋がるから、戸籍とか住民票とか出さなくても良くなるとか、添付書類の簡略化の方向へ向かうのではないか。遺産分割協議については活性化されるかもしれない。

―「土地国庫帰属法」もできるにあたって、所有者不明土地問題の解決には繋がるか

吉田氏 所有者不明土地問題の解決は、短期的には無理だが、これ以上は増えないこというとにはなるのだろう。最近の人たちは亡くなったら登記を入れるということは、割とやっていると思う。もともと所有者不明の不動産以外は不明にはなりにくいのでないか。

-地方と異なり、東京だと所有者不明土地は少ないのではないか

吉田氏 地方に比べれば少ないだろうが、東京でもそれなりにある。例えば私道の共有などがある。最近の案件であったのが、お寺の参道の登記。登記簿を見たところ、ざっと30人の共有になっていた。しかも名義人の名前が「●●右衛門」だとか、明らかに登記制度ができた明治初期に登記されてそのままだ。一人につき相続人が何人いるだろう。子、孫、曾孫となって100人くらいはいるのでないか。それが30人分だと3000人の遺産分割協議となる。真面目に取り組んでいたら私の人生が終わるし費用も莫大になる。これらの事情を勘案し、この登記は止めるということになった。すでに問題が発生していても、解決できる案件ばかりではないため、制度ができたところで完全には解消しない。

土田氏 東京における不動産登記の問題はやはり、私道部分だ。所有者不明を無くしたくて相続登記を義務化したのだろうが、既に所有者不明になってしまっているものはどうするのか。今更やったところで意味が薄い気もする。所有者不明土地問題を解消させるためには、法律上申し出がなければ行政が強制的に貰いうける制度のようなものがないと、実効性に乏しいのではないか。

― 一般社団法人としての活動について

鷹取氏 相続登記義務化で、社団としては活動の幅が広がると思う。相続自体が複雑化している。相続人が多いとか、相続する人の関係性が希薄で、このような社会の変化の中で義務化が始まるから、より専門家に相談されるケースが増えるだろう。相続だけでなく、例えばマンションの一部屋に住んでいるだけの人でも、住所変更や名義変更があれば登記しないといけなくなる。どういうところでどういう需要が拾えるか、今後考えないといけない。今はオンラインのセミナーとか相談会を行っている。生前の相続対策の中で、登記をしていなければ、そこはしっかりやっていきましょうと、事業承継を含めて困っている人には、相続や事業承継が発生する前に登記をしておくということが大事なので、親世代が持っている資産の把握や活用方法などについて、セミナーや相談会などを中心に行っていきたい。

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