特集; コロナ禍の地価ー郊外住宅地

在宅勤務や三密回避で住宅の商圏拡大  ―地方市場は微風、仕入れ難化など課題も  

コロナ禍で大都市圏郊外の住宅市場が活気を帯びてきた。テレワークの普及や巣ごもり志向の影響で、都心から離れても広くて値頃感のある住宅を望む消費者が増加。戸建て住宅やマンションの商圏が緩やかに広がり、そのことが21年地価公示の動向にも表れた。ただ、もともと職住近接が根付く地方圏では郊外化の動きは弱く、コロナ禍による消費者目線の変化には三大都市と地方で温度差もあるようだ。  

 「コロナ禍でこれまで動いていなかった郊外の在庫が動くようになった」-。ある不動産会社のトップは足元の市況をこう表現する。この会社は熱海や軽井沢、房総などの高級戸建て住宅を販売しているが、昨春以降に都内に住む会社員などの新たな実需が加わり、反響と販売件数が急増したという。 今回の地価公示で、東京都内では駅から遠い不便な住宅地などで地価の下落が目立った。一方、都心に出やすい埼玉や千葉など郊外の住宅街などで上昇地点が増える傾向が強まった。コロナ禍で時間や場所にとらわれない働き方が普及。人口が過密で住宅価格も上がり続ける都心を避け、郊外の住宅を求める動きが主流ではないにせよ広がってきた。  

 こうした「商圏」の広がりは、埼玉では上尾市や川口市、戸田市などに顕著だ。千葉では木更津市や君津市、市原市など、従来は住宅市場のボリュームゾーンではなかったエリアに開発が波及している。 トヨタホームが千葉ニュータウンで分譲する大型宅地「星と時のヴィレッジ」(千葉県白井市、総開発面積約5・8ha)の販売ペースが昨年に上がった。15年から段階的に240戸の分譲を始め、じわじわと売れていたが「コロナ禍で販売ペースが一気に加速した」(同社)。北総線・千葉ニュータウン中央駅徒歩18分と恵まれた立地ではないが、自宅に居ながら半屋外の空間を活用できるウッドデッキや作業場付きの大空間リビングなどが支持された。  

 ポラスグループによると、主力の戸建て分譲事業だけでなく、新築マンションの販売にも勢いが出てきたという。昨夏に発売した「ルピアグランデ柏ココロリゾート」(千葉県柏市、196戸)は約3カ月で過半の100戸が成約。スタートダッシュが早かった。同社の戸建て分譲部門は昨年7月、単月で過去最高の販売棟数となる317棟を達成した。  

 神奈川県では大和ハウス工業の新築分譲マンション「プレミスト湘南辻堂」(神奈川県藤沢市、914戸)も健闘する。期分けして1月に販売を始めた2街区(510戸)は今月29日までに約110戸が成約した。藤沢は海や複数の公園があり、大型商業施設などの生活インフラも充実している。藤沢駅から東京駅までは電車で50分と通勤圏内でもある。藤沢の不動産はコロナ禍で大きく株を上げた。

郊外需要は流動的、感染状況で変化も

 

広島建設・市原展示場 外観

 千葉県を中心に東京や埼玉などで戸建て分譲事業を展開する広島建設(千葉県柏市、島田秀貴社長)は今年1月、市原市に木造注文住宅のモデル棟を作り、市原や木更津などに事業エリアを広げた。市原市のJR内房線・五井駅から新宿駅までは片道1時間20分程度の距離だが、「テレワークが定着すれば居住も現実的になる」(同社)と市原を有望視。新設したモデル棟で、仕事用スペースを充実させた在宅勤務仕様の住宅を積極提案している。  

広島建設・市原展示場 内部

 郊外の住宅市場が活気づくなか、住宅各社には悩みもある。それは仕入れのハードルが上がっている点だ。大和ハウス工業は現在、千葉・流山で戸建て分譲事業を手掛けているが、同圏域で開発適地が減っており、来年以降に手持ちの在庫が尽きれば現地での事業機会が当面はなくなりそうだという。  ただ各社が在庫を減らしているのは、算盤を弾いた結果という面もある。コロナ禍で市場の先行きが読みにくく、郊外の住宅需要は流動的だ。コロナの感染者数が減れば企業の出社率が上がる可能性もある。このため供給側も郊外での仕入れには慎重になっている。  

 一方、地方圏では住宅の「郊外志向」は三大都市圏ほどの目立つ動きにはなっていない。例えば福岡市は大都市にも関わらず、職住近接型の都市構造というのが特徴だ。通勤時間が短いため、通勤時の感染リスクに対する懸念は東京都心部などと比べると薄く、市が感染症対策を徹底していることもあり「出社している企業が多い印象」(福岡市のビル賃貸業)という。  

 コロナ禍の影響を受けつつも福岡市の地価上昇は続いている。市全体で住宅地は3・3%(前年6・8%)、商業地は6・6%(16・5%)、それぞれ上がった。ただ地価上昇の原動力となっているのは主にJR博多駅周辺や都心近郊のマンション適地で、郊外部ではない。積水化学工業住宅カンパニーも戸建て事業の近況について「三大都市圏を除く地方都市の受注棟数が前年実績をやや下回った」と指摘する。コロナ禍で住宅市場が郊外に広がるのは全国的な傾向ではないようだ。その傾向もコロナの感染状況や企業業績、働き方の変化など複合的な要因で常に変わる。供給者側は今後数年、仕入れや開発、販売に難しい判断を迫られそうだ。(日刊不動産経済通信)

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