シリーズ;東京「人口減」をどうみるか① 賃貸住宅空室率に変動はみられずーリクルート・住まいカンパニー 笠松美香氏(上)

コロナ禍により東京都の人口は昨年8月以降、対前月でマイナスが7カ月連続で続いており、他府県への転出超過も7ヶ月連続。こうした人口の動向が賃貸住宅市場にどのような影響を与えているのだろうか。リクルート住まいカンパニー「SUUMO」副編集長の笠松美香氏にコロナ禍における賃貸住宅市場と、国が推進しようとしているデュアルライフ(二地域居住)における課題や展望についてきいた。

―東京の住宅市場について

笠松氏 2020年の新築分譲マンション市場は全体的に供給が減っており、都心はもとより郊外も同じだ。相対的に郊外の比率はあがっているが母数は減っている。今後も増えるかというとそういう見立てはできないのではないか。一方で賃貸住宅はこのコロナ禍でも空室率や家賃の動向に大きな変化はでていない。

―東京都内の賃貸住宅の供給は前年と比べてそう大きくは減っていない。一方で人の流れが遮断され、世帯数は例年ほど伸びてはいない。空室率に悪影響がでているのではないか

笠松氏 当社で運営する住宅情報サイト「SUUMO」および掲載不動産会社からのヒアリングをみる限り、統計データに表れるほど空室率は上がってはいない。居住用不動産は、オフィスや商業店舗など、景気動向次第で急に空室率や賃料が影響するアセットと比べて、影響は緩やかだ。加えて住宅は新築の人気が高く、築浅物件までは埋まりやすい。一方で築古であるとか、設備が老朽化した物件はコロナであるとか、人口動態以前に空室に元々なりやすい。マーケットの中での勝ち負けは以前からあることだ。東京の転出超過が7カ月連続と報道されているが、その結果がマーケットに反映されるほど賃貸の母数は大きくはない。そのため転出超過が空室率に反映されるほどの状況にはなっていないとみている。そもそも賃貸の指標は遅行性があり、賃料への影響はどうしても遅い。賃料についても、現時点ではデータに表れるほどの影響はでていない。ただしこれから賃貸住宅を新築しようという人には心理的な影響はあるのかもしれない。

―1都3県の人口動態をどうみるか

笠松氏 1都3県における転出者数と転入者数の数字を、2019年と2020年で比較すると、同都県内の移動者数は19年と20年で大した変化がない。人が動いていない。ただし都道府県を超えた移動については、20年は東京都内への転入が少なく、東京都外への転出が多い結果となっている。男女別の内訳をみると、女性の転入者数の減少が昨年より顕著に表れた。 19年の都外からの転入者数を100とすると、男性は94%となり、女性は92%まで減少した。女性は8%のマイナスだ。これは東京の近隣県、周辺3県とか、北関東からの流入が抑制されたとみている。地元よりも都会のほうが仕事があると、東京に来ていた人がそれなりにいたが、今年はコロナで東京へ行っても厳しいだろうと、特に女性の側に「上京抑制」が強まったのではないか。 

 東京は飲食や観光の労働力人口が大きく、女性の就業者も多いのでこのような現象が起きたと考えている。一方で東京都外への転出は19年を100とすると、2020年は男女ととも105で転出者の増加率に男女の違いはない。周辺3県の動向については、神奈川・埼玉・千葉も2020年の転入数は減っているが、転出者数も減っている。移動がそもそも抑制されている。

渋谷・目黒区の住宅地

―東京から転出数増は地方への移住という可能性はあるか

笠松氏 地方移住はそうすぐ簡単にはいかない。このコロナ禍で田舎に行ったという人はごく少数に限られるだろう。そもそも1都3県はそのエリア内での人の出入りが多い。周辺3県から都内への転出であるとか。そのあたりのニーズがコロナ禍でまず抑制されているのではないか。 

 一方で東京から外へ出ていく人も、もともと周辺3県から出てきた人が戻ったりという層がボリュームゾーンではないか。どうしても地方移住は仕事も変えることになるし、今の時期に新しい仕事は都心に限らず地方も見つけにくいだろう。東京の転出入は仕事に結びついたものが大半だ。東京都の人口の約過半数が単身者世帯であり、一人の行き来だけで世帯数は変わる。2020年で失業率も大きく上がったのが東京で、すぐに見つかるはずの仕事が見つからないのが、転出超過につながっているのではないか。

―転出が今後も続くとは考えにくいか。リクルート住まいカンパニーでは今後都心居住と郊外居住でニーズが二極化していくというが、その根拠は

笠松氏 郊外志向については、まずテレワークの利用意向調査によると、利用した人のおよそ8割が今後もテレワークを続けたい、という意向がある。一度知ってしまった良さは企業側の都合だけで変えられないし、国も出社抑制を推進している。コロナ後も一定のテレワーク需要は残るはずだ。今後は大企業のテレワーク導入が鍵を握る。これまで大企業は決して積極的ではなかったが、この機に取り入れる形になり人材定着のため大企業にも浸透するのではないか。そういった企業に勤める人が、首都圏でも少し郊外を選ぶという動きが出てくる。一方で都会における経験だとか人間関係であるとか、そこも捨てたくないという人もいる。 テレワークを行うにしても都心が良いという人がコロナ後もいるだろう。都心のマンション価格の上昇は陰りがみられず、中古マンション価格も新築に引っ張られる形で上昇している。都心に住むという人気は落ちないと思っている。

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