不動産経済アーカイブ②「あの時はこうだった」リーマン・ショック(下)
高層ビル群(六本木・赤坂)

 激動の不動産市場アーカイブ「あの時はこうだった」。世界に金融連鎖したリーマンショックは世界連鎖という点では今般のコロナ禍とも重なるが、当時、金融収縮(クレジット・クランチ)が不動産市場に与えた影響はダイレクトなものであり、支援を断たれた不動産ファンドや中堅デベロッパーの破たんが相次いだ。海の向こうの米国ではサブプライムローン問題という予兆がみられていたが、大手投資銀行の一角だったリーマン・ブラザーズが破たんに至ったのは08年9月。当初、日本への影響は軽微とされ、邦銀は米投資銀行の支援に廻ったが、時間の経過とともに、国内でも金融収縮とそれに伴い景気が低迷、不動産市場にインパクトを及ぼした。(以下、出典と日付は日刊不動産経済通信)

何でもありでルール崩壊/米住宅市場への根本治癒/日本の金詰りの不思議

 ◎何でもあり、なりふりかまわず。リーマンブラザーズ証券の破綻に代表される国際的な金融不安が顕在化してからのこの数カ月間の欧米各国の対応にはこんな言葉がぴったりくる。何も揶揄しているわけではない。危機の状況がそれだけ深刻で、根が深いことの証明でもある。日本が1990年代に4~5年かけて取り組んださまざまな施策が、わずか1~2カ月の間で実行に移された。早回しの映像を見ているようだ。これは施策を小出しにしてかえって傷口を広げてしまった日本の過ちが教訓になっていることは間違いない。しかし、明らかにやりすぎという策も目に付く。例えば、金融商品の時価会計適用の緩和がそうだ。米国の決定に続き、国際会計基準委員会も追随した。金融機関の損失隠しを公然と認めたようなものである。それにもかかわらず、7~9月期の欧米金融機関の四半期決算では悲惨な状況が明らかになりつつある。市場の失望感は大きい。G7による金融危機に対する行動計画の合意で一旦上昇した株価が再び乱高下しているのは、実体経済への影響の懸念ではない。こうした策の小賢しさが見抜かれているからだ。この金融危機にかこつけてGMをはじめとしたビッグ3が環境対策強化を名文に米国政府に2兆6500億円の低利融資を求めたことに至っては、まったくの論外である。しかし、米議会は上下院とも低利融資実行の法案を可決してしまった。もはやルールの崩壊である。いや、彼らはルールの変更と言い張るだろう。しかし、バブル崩壊以降の1990年代、彼らの決めたルールに律儀に従ったばかりに、金融機関と有利子負債膨張企業の数々の破綻を目の当たりにした日本人の一人としては、それはないだろうと言いたくなる。


 ◎どうせそこまでやるのなら、もっと過激な、かつ効果的な施策を期待したい。今回の金融機関の不良債権の買い取りから公的資金の注入までの一連の対策は、あくまでも流動性確保のための対症療法である。銀行間での資金のやり取りが成立しないという異常事態を打開することが目的だ。しかし、金融システムを本当に安定させるためには根本治癒が必要である。それは証券化やデリバティブといった行為を抹殺することではない。大元の原因となった米国の住宅価格の下落を止めることである。これが止まらない限り、サブプライムローン債権だけではなく、プライムローン債権までもがドミノ倒しのように傷ついていく。米国の住宅ローン残高は1300兆円といわれている。その約1割がサブプライムローンで、すでにそのうちの20%以上が毀損しているという。住宅価格下落によるデフォルトの連鎖を止めなければ、それが全体に広がる。しかも、ローン債権の一部は金融工学テクノロジーによって何十倍にも増殖され、世界中にばら撒かれている。この元を断たない限り問題は解決しない。根本治癒とは住宅市場への公的資金の直接注入である。これはさすがに日本でも行わなかった。しかし、日本ではバブル崩壊の大元となった都心商業地の下落に対してさまざまな手を打った。凍結していた旧国鉄用地をはじめとする国公有地の大量放出や、土地の有効利用を高める都市計画法上の規制緩和がそれである。そして都市再生特別措置法が都心商業地価値回復の決め手となった。金融機関への公的資金の資本注入と併せて、このような根本治癒が行われたからこそ、深刻な資産デフレから立ち直ることができたのである。米国もそうした根本治癒に取り組むべきだ。具体的には公的資金による住宅ローンの支払いの保証である。一種の徳政令だ。米国の住宅ローンは実質的にはノンリコースローンであり、住宅購入者はローン支払いを延滞すれば自動的に住宅から追い出され、物件はオークションにかけられる。しかしこれがいま、負のスパイラルを呼び、住宅価格の下落に拍車をかけている。ローン支払いを保証することで、このスパイラルを断ち切るのである。もちろん、住宅購入者の自己責任をどう捉えるかという大問題はある。しかし、すでにルールは崩壊している。高給取りが集まるウォールストリートの金融機関を助けるよりもはるかに一般市民の支持は高いはずだ。


 ◎ところで、欧米とは違い金融システムに問題のない日本で金詰り現象が起きているのはどういうことか。昔から日銭商売は潰れないと言われていた。日々キャッシュインのあるビジネスは、もっとも安定しているはずである。それがあっけなく潰れていく。Jリートがその典型だ。もともとリートは単なる箱に過ぎない。利益のほぼ100%は投資家に配分される。物件の稼働率は90%台後半を維持し、黒字を出し、毎期きちんと配当しているにもかかわらず、物件がレジデンシャルだから、あるいは無理をして大型物件を仕入れたからという理由で、資金を貸し出した銀行のうち1行がリファイナンスを拒否したために、資金繰りが付かず破綻するという姿はどう考えてもおかしい。Jリートや新興不動産会社が破綻したときの発表資料には必ず、「サブプライムローン問題の影響を受けて」という言葉が使われるが、日本の金融機関が本当に影響を受けているのであれば、米国の投資銀行に巨額の出資ができるはずがない。騙されてはいけない。 (高橋 幸男)
2008/10/20

【影響深まる】

民間住宅投資、09年度は景気悪化で減少
―建研の予測、住宅着工は107万戸に

 建設経済研究所が27日に発表した「建設投資見通し」によると、08年度の民間住宅投資は、07年6月に施行された改正建築基準法の影響はほぼ収束したものの、景気悪化に伴う民間建設需要の減退の影響で、前年度比1・2%減の17兆円まで減少し、09年度も住宅需要の低迷などが響き、1・4%減の16兆7700億円に落ち込むと予測している。
 住宅着工戸数の見通しをみると、08年度は前年度比4・5%増の108・2万戸。07年の改正建基法施行による反動増で、08年4~11月は前年同期比9・1%増で推移したものの、リーマン・ブラザーズの経営破綻が起こった10月以降の落ち込みが顕著で、特に09年1~3月は同8・9%のマイナスを予測している。利用関係別では、持家が同0・3%減の31・1万戸、貸家が同8・5%増の46・7万戸、分譲が同3・3%増の29・2万戸をそれぞれ予測している。
 09年度についても、「住宅着工の低迷がある程度続くとみざるを得ない」と分析。大型の住宅ローン減税が実施された場合の効果はあるものの、景気の下ブレによって、住宅着工戸数は前年度比1・1%減の107・0万戸と予測。内訳は、持家が同4・0%減の29・9万戸、貸家が同0・2%減の46・7万戸、分譲が同0・5%増の29・3万戸。
 持家は、景気の悪化に加え、中期的には持家から分譲へのシフト傾向もあり、今後もさらに落ち込む可能性が強く、分譲は、金融機関の融資姿勢の厳格化によるデベロッパーの倒産が相次いでいるという不安材料はあるが、企業経営が安定して在庫が減少に向かえば底打ちの可能性もあると見ている。
2009/01/28

地価下落の実相・マンション①


販売価格の下落で現状では事業採算割れ
 ―土地・建築費の下げ待ち、仕込は様子見

 リーマンショック以降、マンション販売価格が下落した。08年秋に仕込んだ土地では事業採算が合わず、計画を組み直さなければいけない-。ある大手マンションデベロッパーの用地仕込み担当者はこう語った。08年秋以降、各デベロッパーが在庫処分のために思い切った価格改定を行ったほか、残戸を専門業者が買い取ってアウトレットマンションとして売り出される物件も増えており、新築マンションの価格もそれに引っ張られる形で下がり基調となった。そのため、新たに売り出すマンションの価格をどこに設定すべきか、探りあう状態が年明け以降続いている。
 価格が下落基調の中で、売値の最低ラインをどこに設定するか。その最低ラインから、建築費や利益などを差し引いたうえで、用地価格を割り出し、事業化できるか否かを判断する。しかし、現況では「もう一段、土地代と建築費が安くならないと事業化は難しい」という判断にとどまっており、デベロッパーの多くが新規の仕込みについては慎重だ。
 売値の目線については、「01~04年の水準」(三井物産)、「00~05年の新築と、現在の周辺中古物件より5%くらい高い価格を最低線とする」(丸紅)、「03年の水準までは落ちないだろうと予測している」(双日)、「05年あるいは06年の水準」(商社系デベ、マンション専業デベ)と見方は分かれる。平均価格帯は、「首都圏で4000万円くらい」(大手マンションデベ)、「首都圏で4000万円台前半に設定できれば売れる」(有楽土地)と、目線はほぼ一致。
 現在売り出している用地は、半年前に比べ格段に安くなっており、「路線価と同額、あるいは路線価より安い土地も増えている」(大手デベ)状況でありながら、いざ事業化を考えた場合、「安くなっているとはいえ、買える値段より差はある。指値の余地は相当ある」(商社)という。
 建築費は、「70~80㎡、3LDKで戸当たり1800万~1900万円あたり」(マンション専業デベ)、「2000万円まではいかないが、1800万円から上で推移している感じ」(商社)で、さほど下がっていない様子。ただ、「年内に間違いなく建築費は下がる」という見方が大半を占めており、「建築費をあと30%下げられたら採算が合う」(マンション専業デベ)という声もある。土地、建築費とも事業化をするにはまだ調整局面であり、各社とも慎重に情報を精査している。

更地の売手側も慎重、用地情報は増えず

 更地の用地情報は前年同月に比べて「少ない」、あるいは「増えてない」という反応が多い。「売り手側も価格下落局面で売るのは損という考えがあるのではないか」と大手デベの担当者は推測する。
 ある中堅デベロッパーは、城東エリアで更地のマンション用地1カ所を保有しており、売却するか、時期を待って事業化するか迷っている。売却を踏みとどまっている理由として、「近隣の相場を調べても売値をいくらにすればいいのか見えない。同エリアのマンション用地価格の指標が出来てこないと売却に踏み切れない」という。また同社は、多くの会社が年度をまたぐ4月以降、第1四半期あたりにデベロッパーが保有するマンション用地の放出が増えるとみており、その状況を待ってから相場を確認し、判断するという。
2009/03/25

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