団地再生の基本的な方向性を考える(上)―高齢者居住の視点から― 有限会社夢工房 代表取締役 古居みつ子
古居みつ子氏

 昭和40年代前半に開発された首都圏郊外の中高層大規模団地約5000戸および2500戸(共に分譲+賃貸)の再生に関わっている。といってもハード整備ではなく団地活性化の地域の取り組みを支援する立場である。いずれの団地も居住者と建物の高経年化により、まさにオールドタウン化の様相を帯びて、地域活動の担い手不足が深刻である。
 大規模団地は郊外住宅地共通の課題が集積していて再生の解が求められているが、ニュータウンと違って公的施設や都市計画施設がないので公的関与はない。
 複数の主体が関与して一団地を形成するため、再生には団地ごとに独自のプランをつくり共有する必要があるが、同規模程度の団地再生プランをこれまでに見たことがない。法規制と合意形成のハードルが高くまとめるのは難易度が高いと考えられる。
 再生プランをまとめる場合の視点と仕組みづくりの支援策が問われている。「高齢者の居住継続を支える」視点から「団地再生プラン」の基本的な方向性を考えたい。

「住む」に特化した団地からの脱皮


<若年子育て世帯の転入促進がカギ>


 社会的課題である少子高齢化・人口減少のスピードをいかに緩やかなものにしていくか。そのカギは、若年子育て世帯が魅力を感じる団地への変容と若年世代の人口転入の流れをつくることと考える。
 一般的に団地の課題は、①同一ニーズを持った年齢層が一群となって居住している、②機能が「住む」ことに特化している、そして当該団地では③50㎡/戸前後と画一的で小規模な住戸構成、に起因している。
 「住む」という視点だけなら団地は快適である。豊かな屋外空間、自然や緑が豊富で、一部撤退もあるが保育園、学童保育、小中学校といった公共施設も、日用品販売店舗も銀行も一次医療施設も揃っている。乳幼児の子育て期には抜群の環境である。居住者からはお孫さんが来訪の折には喜ばれているとも聞く。そのための用途上の法規制の縛りもある。
 しかし、「暮らす」「ライフステージを見通す」について団地内に選択の余地がないことが問題である。子供が学齢期になると転出世帯が増える。
 教育環境を考慮してというのもあるだろう。就学先を選べるようになると、親の通勤の利便性と併せて転居先を選ぶ。この団地から同じ行政区内の他地域を選ぶ傾向も多く見受けられる。
さらに、子供が成人すると団地内での住み替えが想定されていないので(住戸が小規模で画一的)子供は団地外に転居して世帯分離が進み、人口減少・少子高齢化となる。

<団地を「住む」だけに特化させない>


住み手が循環する、多様な世代が「住む・働く・楽しむ」ライフスタイルが実現できる団地への変容が不可欠である。コロナ禍でより一層ワーク・ライフバランスを考えた世帯も多いのではないだろうか。住むだけではなく、働き、楽しめる多機能な団地への変容が必要ではないか。
団地内に限らず地域・日常生活圏域を対象に、多様な世代・世帯の居住を前提とするグランドデザインを見直す。50㎡/戸と画一的な住戸構成から、一部は2戸を1戸に改修して子供2人が大学生くらいまでは同居できる規模にして画一化から脱却するなど、多世代が「住まう」を前提とした多様な規模と種類の住戸配置が、約半世紀経過した現代の需要である。そうすればライフステージに応じて地域内の住み替えができる。
小規模世帯向けの賃貸住宅から戸建て賃貸、多様な規模の区分所有マンション、コワーキングスペースや食堂併設、時代のニーズによって転用可能な共用空間のある共同住宅などが考えられる。住棟の1階に、オフィススペースや趣味活動スペースなどの共同利用空間をつくる。コロナ禍で普及しはじめたテレワークのためのレンタルオフィスやコワーキングスペース、シェアオフィスなどを備えた住棟配置などの住民ニーズはある。
しかし、法規制や合意形成のハードルが高く、事業主体の枠組みができない。

<団地再生推進の仕組みづくりが必要>

 賃貸住宅を含めて、ハード再整備の動きは皆無である。危機が可視化できる(孤独死や空き住戸が多い・小学校を廃校する)ようになってから施策展開するのでは遅い。そうなる前からの予防のための住宅施策や行政支援が必要である。
 法規制の縛りの見直しをはかりつつ、ソフトランディングできる仕組みをつくる。どこからどう手を付けたらよいのか? 大規模なニュータウンでは行政主導の再生プランづくりが進んでいるが、団地単独では建替え以外の実例はない。法整備を含めた推進のための「仕組み・フレームづくり」は行政支援を最も必要とするところである。
 子供対象の団地イベントの定着に魅力を感じたという転入者の声もあった。
 また、大学生の一時的入居も、何かしてくれなくても「住んでいるだけで良い」と地域の評価は高い。若年世代の転入は、地域の活性化だけでなく間接的には高齢者の居住の安定化にも貢献できている。
 子育て期の若年世代が魅力を感じる団地にしていくことが、いわゆる「限界団地」になる・しないの分かれ目である。
(つづく)

2021/1/20 不動産経済FAX-LINE

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