不動産経済ファンドレビュー~不動産×〇〇時代の始まり―防音賃貸マンションに見る不動産新事情②
不動産経済ファンドレビュー

 いつでも楽器演奏ができるように防音性能を高めた賃貸マンションが好調だ。その事情を探っていくと、これからの不動産事業に関するいくつかのヒントが見えてくる。集合住宅にとっての付加価値とはなにか、豊かな暮らしを実現するために不動産業がすべきことは何かといったことだ。そもそも集合住宅にとって防音性能は「深夜にピアノが弾ける」とまではいかなくても極めて重要であるという認識が欠けていたこともその1つである。

進化する造り手(住宅事業者)と住み手の関係
「不動産×〇〇」で新たな価値創造へ

 これからの不動産市場を占う2つ目の視点は、コンセプト化する住宅市場では造り手(住宅事業者)と住み手の関係が変化していくということだ。売る(貸す)側と、買う(借りる)側という対立関係ではなく、住み手の価値観にマッチした楽しい暮らしの実現という共通の目的をもったパートナー的関係に進化していく。販売の第一線に立つ営業担当社員に求められる能力も変容せざるを得ない。耐震性、省エネ性、IOT化された設備の説明などハード面での一般的利点を強調するだけでは足りない。それ以上に重要なのはその物件と住み手との親和性に関して訴求する専門的能力である。
 つまり、音楽の愛好家に防音マンションをアピールするためには、営業社員も音楽の愛好家でなければならない。ペットマンションもガレージハウスも同様で、それぞれの営業社員がペットや車などの知識に精通した専門家でなければならない時代になったということだ。そうでなければ、入居者に物件の真の利点を伝えることはできないだろうし、入居者との間に真の信頼関係も生まれない。ちなみにリブランで「ミュージション」のリーシングを担当している社員は10名程いるが、その全員が声楽や楽器演奏でセミプロ並みのミュージシャンだという。こうしたことから言えることは、不動産を不動産として売る(貸す)時代が終わろうとしているということだ。この点は、大手企業の最近のオフィスや街づくり、ニュービジネスを見ても、単に不動産としての開発というよりは、アート(芸術)やグリーン(緑化)、スポーツ、飲食など様々なものとの掛け合わせがテーマとなっている。
 不動産は土地にしても建物にしても、もともとそこに新たな価値を創出するための基盤(インフラ)であるから、不動産自体の価値はその利用目的如何ということになる。日本で80年代後半に起こった“地価バブル”はその意味でも、やはり異常なものであったと言わざるを得ない。

分譲・持ち家市場へも波及か
環境貢献型が先導役に

 住まいのコンセプト化は今のところは賃貸住宅市場がリードしている。防音マンション以外にもペット共生、ガレージハウス、アクティブシニアマンション、ワーケーション、アドレスホッパー、SOHO型、個性型シェアハウスなど多彩である。これに対し分譲マンション市場ではターゲットを少数派に絞ったいわゆる“とんがり企画”はほとんど見受けられない。賃貸とは事業スケールが異なるためリスクの大きさを考えれば当然だが、コロナ禍で加速したコンセプト化の傾向は分譲マンション市場にも徐々に影響せざるを得ないのではないか。ちなみに、分譲マンションでも近年は脱炭素化など環境貢献型を訴求する動きが始まっている。つまり、環境問題に鋭敏な人たちをターゲットにしているともいえるわけで、こうした住み手の価値観を重視した動きが今後は分譲市場でも強まっていく可能性がある。

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