テレワークと郊外・地方移住    麗澤大学客員准教授 宗 健
宗健氏

テレワークの実態

 新型コロナによる緊急事態宣言によって、多くのひとが強制的にテレワークに移行し、新しい働き方としてのテレワークは一気に定着する、といった見方も多い。

 しかし、筆者も関与した「新型コロナウィルスによる意識変化調査」の6月と9月の回答を比較してみると、テレワーク経験率は26%程度で変化はないが、テレワークを止めたという回答は、テレワーク経験者の39.2%を占めている。

「テレワークと郊外・地方移住」 麗澤大学客員准教授 宗 健

 そして、年収別に見ると、年収200万円未満が12.5%、400万円以上600万円未満が26.5%、800万円以上1000万円未満が59.1%、1000万円以上が71.2%と、年収が上がるほどテレワーク実施率は高くなっている。さらに、正社員のほうが、従業員数1000人以上の企業に勤務しているほうが、本社部門のほうが、それぞれ実施率は高くなっている。

2020/11/4 不動産経済FAX–LINE「テレワークと郊外・地方移住」

 そのため、大企業が多く本社勤務のホワイトカラーが多い首都圏のテレワーク実施率は6月時点で40%近くあり、一方で東名阪以外の地域でのテレワーク実施率は2割に満たない。さらに6月と9月を比較すると、地方の方が、年収が低い方が、テレワークを止めた人が多くなっている。 簡単に言えば、テレワークとは、これから広い範囲で一般的になる新しい働き方ではなく、大企業のホワイトカラーに多い働き方であり、すでに揺り戻しが始まっているのである。

2020/11/4 不動産経済FAX–LINE「テレワークと郊外・地方移住」

テレワークによる社会の分断

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 年収別でも地域別でもテレワーク実施率は大きな違いがあるが、興味深いことに、テレワーク実施者の「テレワークしている友人・知り合いが多い」という回答は過半数を超える52.6%もあるが、テレワークを実施していないひとの回答は13.8%と非常に低い。

 日本では国籍や社会階層の違いは不明確だが、テレワークしている人としていない人では、人的ネットワークが分断されているようである。

 そして、SNSでは自分と同じようなライフスタイル・考え方のひとの投稿ばかりを見ることになり、それがいわゆるチェンバー効果をもたらし、検索サイト等のフィルターバブル効果もあって、テレワークがあたかも普通の働き方であるかのような(逆から見れば、誰もテレワークしていないよ?という)錯覚をもたらしている、という側面がある。テレワークは、図らずも「働き方」という軸で社会の分断を明らかにしてしまったのである。

思考と行動の違い

 テレワークによって通勤が減少したこともあって、郊外や地方の人気が出るだろう、東京一極集中が解消に向かうだろう、という意見もあるようである。実際、前述の調査の結果を見ても、「コロナをきっかけに郊外への引っ越しを考えている」という回答は全体で8.9%、テレワーク実施者では19.7%と高い。同様に「地方へ」は全体で8.9%と14.9%、「2拠点居住」は8.4%と16.9%となっている。この比率は「都心へ」「都会へ」という回答よりもやや高く、確かに郊外や地方への移住の関心は高まっているようである。

 しかし「考えている」ことは、実際に「引っ越す」という行動には必ずしもつながらないことに注意が必要である。東京都の人口が減少した、というニュースもあったが、今回の東京都の人口減少は、転出の増加だけではなく、転入の減少によるところが大きく、郊外や地方への大きなひとの流れが生まれているわけではない。

個別事例の安易な一般化

 「テレワークをきっかけに軽井沢に引っ越してテレワークしてます!」というひとがテレビに出てきたりしているが、そうした事例を持って地方や郊外へのひとの流れが生まれているとは言えない。これは、ECF(Extreme Case Formulation)「極端な事例による構成」と呼ばれる手法であり、個別事例の安易な一般化には慎重であるべきだろう。

 地方や郊外へという志向は、リーマンショックの時にも、東日本大震災の時にも話題になったが、首都圏の人口減少は結局一時的なものだった。今回のコロナによるひとの流れについての結論はまだ出せないが、テレワーク実施率の低下という揺り戻しも考えれば、再び都市部の人口増加に向かう可能性もある。

 地域の人口は増やすのも減らすのもひとびとの強力な動機の積み重ねが必要なのである。

地方と都会の住みここちと仕事

 筆者の別の研究では、生活利便性や交通利便性、親しみやすさや静かさ・治安、イメージ、物価、行政サービスといった要因を統制しても、地方よりも都市部のほうが住みここち(居住満足度)が高いことが分かっている。

 また、自然環境や物価、行政サービスといった要素も、住みここち(居住満足度)を押し上げる効果に乏しいことが示されており、地方の濃密なコミュニティは、若年層から評価が低いことも示唆されている。

 さらに、テレワーク実施率が明らかにしてしまったように、地方ではクリエイティブ系やホワイトカラー系の仕事も多くはない。

 これまで、地方の豊かな自然や物価の安さは住みやすさにつながる一方、仕事が少ないことが地方の人口流出の要因だと当然のように思われていた。しかし、現在のコロナ渦は、そうした常識をも見直すことを求めている。

<参考文献>

・「2回目となる新型コロナウィルスによる意識変化調査」大東建託賃貸未来研究所(2020.10.16)

・宗健(2019)「居住満足度の構成因子と地域差の実証分析」都市住宅学会2019年学術講演会

2020/11/4 不動産経済FAX–LINE

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