世界から人と投資が集積する 国際金融都市構想をめぐる官民の動向(下)
不動産経済ファンドレビュー

兜町-日本橋-八重洲エリア一体で高まる価値
人と投資は、コミュニティと文化に集う

世界から人と投資が集積する 国際金融都市構想をめぐる官民の動向(上)より続く


 フィンテックのスタートアップ企業やEMを集積し、金融事業の入口として兜町を活性化しようと試みるのは平和不動産。東京証券取引所が拠点を構え、日本のウォール街と呼ばれた金融の中心地は、取引のオンライン化とともに多数の証券会社が移転するなど、変化の時期を迎えていた。2017年4月、平和不は金融系ベンチャー企業の起業・発展を支援するオフィス「FinGATE」を開設。現在、5施設に50社超が入居するまで規模を拡大している。オフィス機能の提供に加え、金融庁の「拠点開設サポートオフィス」、前出の東京国際金融機構も入居し、行政機関および情報ベンダーなどへのアクセスをサポートすることで、ベンチャー企業と支援企業双方のコミュニティを築いてきた。「金融ベンチャー企業、独立系資産運用会社、行政が1つの街に集い対話をすることで、互いに新たな動きを生み出すような流れを大切にしたい」(荒大樹平和不動産ビルディング事業部主任)。
 さらに、従前は証券会社の支店が多く入居した路面店に、他地域で実績を持つ飲食店などを誘致し、人々が集う街づくりを目指す。国際金融都市は、多くの投資資金を集めるため、情報を集積する機能が重要。2021年8月に竣工したオフィス「KABUTO ONE」は、500名を収容するホールと7つのカンファレンスルームで金融拠点機能を提供する。その他、滞在先となるホテル、交流を深める飲食店といった連鎖的な開発で、街は新たな鼓動を打ち始めた。
兜町から東京駅方面へ目を転じると、商業の中心地であり、歴史と文化の香り豊かな日本橋エリアが続く。日本橋の再開発に約20年以上、地域とともに取り組んできた三井不動産の七尾克久日本橋街づくり推進部長は、「点から線、線から面へと開発は広がりを見せ、さらに八重洲エリアと一体となった面的ミクストユースが進展する」と話し、東京駅東側の複合的開発によりエリアとして多機能を包括し、都市間競争力を上げていく未来を指摘する。足元では、2021年12月に「日本橋一丁目中地区」が着工し、5街区大規模再開発の幕が上がった。「中地区」には、1500㎡規模の大型ホール2つを設置、ヒルトンが運営するラグジュアリーホテルほか、オフィス、住宅と、まさにミクストユースを体現する空間計画。3月に都市計画の決定を受けた「日本橋一丁目東地区」では、英語対応のコンシェルジュを置くなど国際水準の居住施設が一部設けられる予定で、職住近接と外国人への生活インフラが整えられていく見通しだ。
 加えて、日本橋の大きな魅力は川という水辺空間の存在。「世界でも川に対して開かれたオフィス街は希少性が高く、これを活かさない手はない」(小川将三井不動産ビルディング事業一部長)。多様な目的を持つ人々が集う街は、首都高の地下化事業によって、新たに水辺空間というポテンシャルを生み出す。三井不および平和不は、周辺開発を手掛ける他デべロッパーとの連携を示唆しており、各再開発事業は、東京駅から日本橋、兜町、茅場町へと回遊性を高め、各々が持つ特性が多様性の厚みとなって人々を受け入れていく。
 世界の国際金融都市は、投資が集積し人が集まる、まさに豊かなコミュニティと文化が存する都市であると言える。常に新たな挑戦を受け入れてきた伝統を持ち、現在の大企業が同地を礎に世界へと羽ばたいたコト始めの街。投資のエコシステムは、次代のイノベーションへ挑む人々のコミュニティが育んでいくと見られ、その機会の創出と促進を担おうと、街はすでに動き出している。

2022/7/5 不動産経済ファンドレビュー

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