建築費は今後さらに上昇する…ロシア侵攻が何をもたらしたのか 建築費と金融政策のシナリオを見る(上) 

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって4カ月(6月25日時点)。不動産金融市場にとって不透明な状況が続いている。建築費はどうなるのか、金融政策はどこへ向かうのか。不動産経済研究所は、「ロシア侵攻が変えた世界」と題したセミナーを開催した。経済・金融の大変調、今後をどう生き抜くかについて、建築、金融など各界から4名が登壇し、足元と今後の見通しなどを語った。セミナーの概要を紹介する。

建築費は今後さらに上昇する 資材費高騰、人手不足、コスト吸収限界

 「どうなるのか建築費、騰落メカニズムと楽観・標準・悲観シナリオ」と題して、アーキブックの小長谷哲史氏が建築費が騰落するメカニズムと今後のシナリオなどを講演。

 建築費の動向予測として、最も可能性が高いと考えるシナリオは、今後さらに上昇すること。建築費が高騰すると見込まれる理由は9つある。具体的には①止まらない主要建設資材価格の上昇②10年連続上昇中の労務単価はさらに上昇③ゼネコンのコスト吸収も限界で価格転嫁へ④働き方改革による建築費への影響⑤ウクライナ危機、プーチンショックの影響⑥人手不足の建設業で就業者はさらに減少へ⑦カーボンニュートラルでリニューアル工事増加へ⑧超売り手市場の到来⑨コスト増加×超売り手市場=建築費超高騰、の9つ。

 資材価格は、2020年9月を100とした場合、2022年3月までに木材は75%、鋼材は66%、建設資材物価は21%上昇した。この状況はおさまっておらず、4月時点の鉄筋価格はトン当たり12万4000円で、鋼材価格高騰期を1万円以上上回り、業界として未知の領域にある。高騰した理由は、木材はアメリカにおける住宅需要増加が引き金で、世界的に木材需給がひっ迫して価格が上昇。鋼材は、世界的な鋼材需要が高まり、原材料である鉄鉱石や原料炭の価格が上昇した。いずれも国内における需給状況よりも世界における需給バランスと価格に左右される側面が強い。今後、木材や鋼材の主要消費国では中長期的な経済成長が見通され、インフラや住宅の需要増に伴って資材価格も上昇が見通される。また、さらに円安が長期化すれば為替の影響も受けることになる。

 ウクライナ危機について、ロシアは木材、天然ガス、石油の輸出大国であり、市場の1割が経済制裁で無くなると、価格は上昇する。とくに原油・エネルギー価格の上昇は、建築資材の製造、加工コスト、燃料、輸送コストを押し上げ、間接的に影響を及ぼす。石炭の輸入規制により、鋼材やセメントの製造工程で使われるため、価格に影響を与える。

 人手不足については、今後就業者はさらに減少する。カーボンニュートラルでリニューアル工事が増加すると人手不足に拍車がかかる。超高齢化により建設就業者数が大幅に減少、働き方改革で4週8閉所となり工期が延びる、手間がかかる改修工事の割合が増えるので供給可能な工事量は大きく減少、一方でリフォーム・リニューアル需要は増加し、売り手市場が加速し、超売り手市場を迎える。

 ゼネコンのコスト吸収も限界を迎え、今後のコスト増加分は建築費に転嫁、十分なリスクが見込まれる。すでに建築費の水準は高騰しているが、さらに上昇、超高騰時代へ突入する見込みだ。

ロシア侵攻が何をもたらしたのか 建築費と金融政策のシナリオを見る(下)へ続く

2022/6/25 不動産経済ファンドレビュー

不動産経済ファンドレビュー
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